朝涼

ded6話事後処理

2022年7月5日

 最奥を汚される感触に身体が震える。
 じわりと、なにかに侵食されていくような、塗りつぶされていくような。恐怖と悦が混じり合う。同時に満たされる感覚を覚える自分の思考に吐き気を覚えた。
 普段は遠い床が今ばかりは近く、ローテーブルを支えに息を整える矢島を背後から支える斉藤が、ゆるりと中に入ったものを動かす。それを敏感に感じ取りきゅうと締め付けてしまう内壁の反応に、血が上った。
 さきほど扉の向こうからかかった声と内容から、再びあの若手官僚が探しにこないとも限らない。何より矢島も香川や子供、そして広瀬のことを全部投げ出してここにいるわけで。説教という態としてもそろそろ戻らないとまずい。
 と、いうのに。
「ん、ぅ――」
 ずるずるとゆっくりと引き出されると内壁が留めようとする。そんな反射に斉藤が背後で笑う気配。
「てめ」
「そのまま」
 振り向こうとした矢島の頭は、斉藤の右手で抑え込まれる。
 矢島の精を受け止め濡れた左手が、抜けた斉藤の熱の代わりに入ってきた。柔らかく熟れたそこを二本の指が開くと、中に出された白濁がとろりと流れ落ちる。内壁を伝う感触をしっかりと感じ取り、肌が粟立つ。
「っ」
 中の指がゆっくりとその白濁を掻き出していく。粘度の高いそれと空気が混ざり高く鳴く、その音に羞恥が募り指を締め付けてしまう。
 掻き出されているだけだと判っていても斉藤の指を覚えているそこは、どうしたって悦を拾ってしまうわけで。
「ぁ、あっ」
 しつこいほどに触れられ、覚え込まされた場所を指が撫でると綻ぶ喉から声が滑り落ちる。先程までの太く熱いもので身体の奥を突かれるのとは違い、疼痛にも似たそれは少しだけ物足りなくて、気持ちが良くて。覆いかぶさってくる身体の重みに慣れてしまって、むしろないと心許ない。
 意識がどろりと溶け、腰が揺れ、はしたなくもっと奥に触れてほしくなる。

 そんな自分の思考が信じられなくて、けれどそれは紛れもなく事実でもあって。

「残念ながら、時間切れだ」
 矢島の思考を知らぬ背後の男が、最後にくるりと口の部分を撫で指を抜いたあと、机の上にある水のペットボトルを手に取りハンカチを濡らした。
 冷たいそれで矢島の内腿や下腹部を清めていく。
 ――あぶねえ。
 脳みそに直接冷水をかけられたように思考が戻ってくる。
 あと少し遅かったら、確実に口から出ていた。挿れてくれ、と。音を立てぬように深く息を吐き、そうならなかったことに安堵する。

「起きられるか」
 背後から斉藤の腕が回り上半身を起こされる。胸に背中を預ける形になったあと矢島の脚に絡まったままの下着とスラックスが持ち上げられ、整えられた。
 されるがまま斉藤の指の動きを視線で追う。矢島の下半身を綺麗にして、シャツのボタンを下から閉じていく。
「これお前のじゃないだろ」
「……何で判んだよ」
「匂いが違う」
 動物か。どこで判断しているのか。呆れて息を吐く。
「広瀬さんに借りたんだよ」
 正確には押し付けられただが、そこは些細な違いだろう。借りていることは間違いではない。
「俺以外の匂いを付けるな」
「意味判んねえよ」
 言いながらもボタンを留め、そのまま矢島の顎を掴んで唇を合わせた。
 小さく音を立てながら、触れては離れることを繰り返し、まだ少しだけ燻っている熱をゆっくりと冷ましていくように。
 あからさまに機嫌が戻っている男は、最後にこちらの頬を撫でたあと腕の中から解放した。

 床に座り込むよりはとソファに寝転ぶと同時に、部屋の電気が灯される。腕で光源を隠し顔を背けると、機嫌の良い声が矢島の耳に届いた。
「今回はお前のかわいい嫉妬に免じて許してやる。子供の件もな」
 腕の影から斉藤を見ると、もうほとんど通常営業の姿で。少しだけ乱れた髪だけが先程までの欲を感じさせている。
 見下され、見上げて。
 顔に名前を彫る、なんて。偉そうにズレている執着の形を見せられて呆れる矢島を置いて“管理官”として部屋を出る男を見送った。
 一人部屋に残されて、もう一度ソファへ転がった。
 戻らなければならないが、まだ身体の奥がざわついているためもう少しだけ他人の気配を遠ざけておきたい。斉藤も矢島を追い出さなかったということは、ここにいても良いということなのだと判断している。

 考えるのは先程言われたこと。
 かわいい嫉妬。……これは嫉妬、なのだろうか。
 斉藤への好意を隠さぬ若手を見て、変わっていると思ったのは事実だ。
 同時に従順に従うその姿にかつて言われたことを思い出す。

 ――斉藤の言うことを疑わず信じ、従うこと。それに対していい傾向だと笑った姿。

 組織として、上に立つものとして、矢島のように反発するよりもそちらのほうが良いということ。
 それを思い出し、あの青年の姿にざわりと心臓が揺れた。それが実際出来るかどうかではなく、するつもりがあるかないか、だとしたら矢島は後者になり、あの青年は前者となる。その前者を、斉藤が求めているのだとしたら、と考えて。
 本店主導、しかも斉藤が指揮を取る案件に所轄のしかも別課が関わることに対して苛立ちを隠さない青年とすれ違った時から、少しずつ矢島の中で何かがずれていった。
 今日一日でたった数回。けれど、矢島が斉藤の近くにいる時必ず現れる青年に、対して。

「……信じらんねぇ」
 いや、信じたくないが正しいのだろうか。
 現実はすでに結果を出していて、矢島が受け入れていないだけだ。
 他人に対して深い付き合いのある人物がいるということを否定は出来て、肯定していないのに。
 関係がある相手などいないと口にしたその後に、一番知られるべきでないと同時に、ぶつけるべき相手にぶつけた言葉はしっかりと拾われていて。真っ最中にまたも現れた青年に対して、三度目の正直とばかりに矢島を優先したことに対して、澱を払われた。
「最悪だ」
 ぶつけて、あまつさえそれを掬われた、なんて。
 けれど事実先程まであった重さが今はない。これがつまり、嫉妬なのだと。
 自覚してしまえばどうなるかなんて、火を見るより明らかだ。
「……最っ悪だろ」
 どこにもぶつけられない苛立ちは自分自身にぶつけるしかなく。
 けれど、斉藤の気配が身体に色濃く残る今の状況ではそれも上手く出来なくて。呟く声は我ながら情けないほど弱々しかった。