2022年8月10日
Various Kisses の続きを冬子さんの許可のもと創作。
令状発行を依頼したところで、それがすぐに現場に到着するわけではない。数時間はその場でにらみ合いなんてのはよくあることだ。
声をかけた時点で警察官は何らかの違和感を持っているものだし、対話しそれが強くなればほぼ確信している。任意を断られ続けると令状の取り寄せとなり、それが届くまで説得という名の時間稼ぎを行う。
全てを用意して乗り込む場合なら時間も計れるが、その場で令状発行を決めたとなると現場判断でなおさら時間がかかる。故に交代要員含めて呼び出しがかかるのは必定。
合流した先では平和なこの界隈では珍しく、何時もよりも騒がしくなっていた。救急車まで出ていて終電前ということもあり野次馬も多い。そんな人の合間を縫って香川に近づき状況説明を受ける。
元々、退勤前に矢島が関わった時には大学生同士の少々行き過ぎた喧嘩くらいのものだった。
別件の捜査での帰署途中に見つけたその喧嘩。無視するわけにはいかず声をかけ、相方が応援を呼んでいる間に二人まとめて諌め、それでも興奮している二人を別々にして落ち着かせ、公共物を壊したことについて処理をして親御さんに連絡を取って終わり──だと、思っていたのに。
矢島が退勤後、持ち物検査で二人の荷物から持っていてはいけないものが出てきてしまったとのことで。
PBや署に移動する前に見つかったものだから、開き直った大学生たちは喧嘩していたのが嘘のように結託してのらりくらりとし始め、埒が明かなくなった。尿検査を拒否し、帰るのだと暴れ、数時間。令状請求となったがための矢島への招集。
数時間前にいた場所へと戻り大学生相手に説得という名の時間稼ぎをしつつ、仕事なんだか雑談なんだか微妙な時間を過ごすうちに日付を跨いだ。
人それぞれ性格があり、こちらの刑事の説得が駄目でもあちらの刑事説得ならすんなりいくなんてことはよくあることで。
今回、香川は見た目のせいで舐められ無理だったと泣きつかれたため、代わりに大学生の一人に近づき話をした。地べたに座り込む大学生の隣で同じように座って、タメ口で世間話。無駄口にも見えるそれを、しかし静止する警察官はいない。これで従順になるならそれに越したことはないからだ。
ぶすくれた大学生など矢島から見たら可愛いものだが、出てきたモノがものだけに、彼らの道は現在、一方通行に決まってしまっている。
首を絞めるネクタイ。
ノットに触れて緩めかけやめる、そんな仕草を繰り返しながらの会話。息苦しいのに緩める気にならないのは、その奥にある欲の存在を自覚しているからだ。
大学生を相手にしながら、脳みその一部でその欲を感じ取る。
夜中という人を狂わせる時間帯に片足を入れた時刻。それに責任を押し付けて、集中しきれない自分を正当化しながら、大学生に道を正す、なんて高尚な説教は出来やしない。
結局令状が届いたのはそれから一時間もしないうちで。強制力のもつそれと共に署に連行される二人とは別に各自現場を引き上げる。面立って関わる香川とは違い、矢島は手伝い要因ということで口頭報告でお役御免となった。
スマホで時刻を確認。二時六分。
このまま自分の家に帰って寝る。──以前なら、そうしていた。
左手でノットを弄りながら指が覚えている動作で電話をかける。ツーコールですぐに繋がる先。
「今終わった、けど、出るの早くね?」
「いつもの場所にいる」
「はあ? 寝てろよ」
「早く来い」
矢島の言葉を無視して返された言葉と、途切れた電波に苛つきながら丸ノ内署から少し離れた路地裏のパーキングへ足を向ければ、確かに見慣れた高級車が止まっていた。
助手席に乗り込めば運転席には部屋着のままの斉藤で、少しだけ珍しい。
無言で出発するその隣で息を吐いた。
こういう時、例え階級が上であろうとも直属の上司ではなくなっている現在、斉藤は無理矢理結果をきいてこない。裁量をこちらに委ねているため、矢島が話せばアドバイスが戻ってくる。その距離感が有り難い。
流れる景色をぼんやりと見ながら、ノットを弄り思考をオフモードへと切り替えていく。
警察官なんて理不尽な仕事で、感謝されることもあれば後味悪く終わることもあるし、罵倒しかもらえないなんてことは日常だ。そして、日々様々な事件に対応するが故に一つずつのことに囚われ続けることは出来ず、思考を切り離す術を学ぶ。そうしないと心が病むからだ。
終わったこと、と処理をしてそれ以上考えない。あの大学生達の過去や未来を、矢島の頭の中で考えたところでどうにもならないからだ。
斉藤のマンションへ戻る頃にはそんな思考もすでに遠く、生ぬるい夜気に不快さを思い出すほどになっていた。
二人して一言も喋らずに。
けれど歩く際、何時もより少しだけ距離が近く、揺れる手の甲がぶつかり合う。エレベーターに入ったあとその指を捕まえると、ぎゅうと強く力が返された。
──閉じ込められた欲が、身体の奥で存在を主張する。
指を繋げたまま十七階へ。共に玄関を潜って向かう先が寝室なんて、どれだけ即物的なのか。思いながらも抵抗する気はなく、矢島が出ていった時とほぼ変わらない寝室に足を踏み入れた。
誘導され、乱れたシーツの上に腰掛ける。上から矢島を見下ろす男は、矢島の喉を指先で撫でた後そのままネクタイに触れた。
「解かなかったのか」
矢島の一部であるかのように、首にぶら下がる布を上から下へと指を這わせるその動きは、欲を感じさせるもので。こちらを煽るその指先に、けれど気持ちは動ききらない。
「あんたが閉じ込めたんだろうが」
目の前の男に抱かれた空気も、欲も、全てを一欠片でも外へ漏らすことなど許さぬとばかりにきっちりと整えられた服。最後に手ずから封をするように絞められたそこに滲む独占欲という毒。
斉藤自ら封じたそれのせいで、解かれるまで矢島の神経は冷静を残したままだろう。
「なるほど」
楽しげに笑う男は、矢島の肩を掴み体重をかけてくる。それに抗わずにベッドに身体を預け、矢島を見下ろす男を見上げた。
目線を合わせたまま、掌でこちらの下半身を刺激してくる男を睨みつける。
「刑事さんを犯すのも楽しいかもな」
「……悪趣味すぎんだろ」
頬を舐められた後に唇が重なる。咥内を柔らかな舌が蹂躙し、同時に下半身を無遠慮に擦られた。
「……んん」
服の上から胸や脇腹を撫でられ、もどかしさで身体を捻る。その動きを抑え込むように動く掌は、しかし矢島の欲を煽っていくのだ。
形を変えていく陰茎。腰を押し付けるように浮かすと、さらりと離れていく指。
「あんた、寝なくていいのかよ」
「迎えに行く前に寝たから問題ない」
時間を計算しても二時間も寝ていないだろうに、まるでそれで十分だとでも言うように斉藤は口にする。
睡眠時の姿を殆ど見せない男は、矢島の身体を追い詰めていった。
「──ッ」
身体は熱を帯びるのに、頭の一部は冷静なままで、この男の封印の強固さを物語る。
好き勝手動く舌を噛み、間近にある赤銅を睨みつけ、両手を掴んで自身の首元へ持っていった。
ノット部分を指で撫でる男の手首に力を込める。
封じ込まれた欲の解放を望むのはお互い様のはずなのに、冷静を装う男が妬ましい。
「睡眠時間どれだけ欲しい?」
唐突な問いかけであるそれは、つまりどれだけ矢島を寝かせないかという確認でもある。現在時刻は二時半頃だろう。明日はどうせこの男の車で署まで行くことになるのだから、八時にここを出たら十分間に合う。そこから逆算すると、
「……三時間」
矢島の回答を聞いた斉藤がノットに指をかけ、緩めながら口付け、囁く。
「二時間半」
「てめ、」
反論を咥内に押し込められ。
同時に、ネクタイと布が擦れて涼やかな音を立て、矢島の身体に押し込められていた斉藤の欲と矢島の熱を解放する、再開の合図となった。
●
横向きのまま左脚を斉藤の肩に担がれる形で、欲を受け入れる。いつもとは違う角度で内壁を擦られ、息を飲んだ。
「あ──ッ」
ぐ、と腰を押し付けられ、全身から汗が噴き出した。いつもとは違う感覚に、内部が締めつけを強くする。その隙間を割られ、背を反らした。
「そ、こぉ、……っ」
前立腺を張った部分で擦られ、屹立した熱から先走りが流れる。内部からの疼痛に脳みそが痺れ、無意識に動く腰を止めることが出来ない。何度も同じ場所を擦られ、その度に気持ちがいい。
「……は、ぁ、ア」
痛みなく、快楽だけを与えられ、頭の中から作り替えられるように覚え込まされたそれを拒絶することなど出来なくて、達することを我慢すらさせてもらえない。
自分の喉から滑り落ちる嬌声と、繋がる下腹部から漏れる水音、焦げ付くような強い赤銅の視線。身体を震わせ、精を出さずに達する矢島の身体を、斉藤は更に反転させてうつ伏せにした。
項から背中へ舌が這い、噛まれていく。噛むなと何度言っても好きだろと言って聞きやしない。
一番唇が触れるのはシャツで隠れる後ろ首で、幾度も噛まれ吸われ、日中でも鈍痛が続くためスマホで写真を撮って確認したら赤黒く鬱血していた。
流石にそれを見た時にはドン引きしたものだが、消える前に付けられるため、もうずっと矢島の首にある。お陰でジムで着るスポーツウェアは襟付きしか着れなくなった。
斉藤の理性が飛ぶと力加減を間違えるのか、肌──特に腰周り──に指痕が付くことがあるが、そんな事故以外身体中に痕が付くことは無い。
セックスの最中に噛まれるのも結局は甘噛みで後に残らないし、所謂キスマークも散在しない。一点集中で後ろ首だけだ。どちらのほうがマシなのか、矢島に判断はつかないけれど。
「──ッ、ぃ、!」
男に串刺され、重たい身体を受け止める。
ぐぷぐぷとすぼまった最奥を先端が抉る、その感触に押しつぶされた陰茎から精が吹き出てシーツを濡らしていった。
初めて抱かれた時から毎回ずっと必ず、内壁が斉藤を拒絶しなくなるまで、逆に媚びるように受け止めるまでどろどろに溶かされるせいで、その状態を記憶した身体が理性を早々に手放してしまう。
シーツを握りしめる矢島の、その手首を押さえつけ、前にも後ろにも逃さぬよう囲い込む男の乱れた呼気を耳の裏側に感じ取った。
男の欲を受け止め、生まれる悦は脳を痺れさせる。
「──く、」
「は、……は、ぁ」
狭い道を押しつぶし捏ねる先端をキツく締め付けると、斉藤の欲がそこで弾ける。ずる、と熱が抜け代わりに斉藤が体重を更に乗せてきた。
「重てえ……」
呟く矢島の顎を取り、乱れる呼気でお互い苦しいというのに唇が重なってくる。受け入れると絡みついてくる粘膜。触れ合わせ唾液を混ぜ合うことに夢中になる矢島の身体を仰向けにした斉藤は、片手は鎖骨から胸へと指を這わせ、もう片腕で矢島の脚を開いた。
「ちょっ、まてって」
脚が開かれたことで、半ば無意識に力を込めて堰き止めていた場所から中に出されたものが溢れ、漏れてくる。
身体を起こし、指で押さえてしまったのは反射でしかない。シーツは様々な体液ですでに濡れていて、今更だというのに。
矢島のこの行為のどこに琴線が触れたのか、視界にあった斉藤の陰茎がひくりと頭を[[rb:擡>もた]]げた。
「なあ矢島」
手を重ねるように斉藤の指が矢島の手の甲を包み込んだ。
「会えなかった間、自慰行為はしたか?」
「何言ってんだあんた」
「俺を思い出して」
額同士をこつりと当て、距離を近くしながら斉藤が言葉を続ける。
「射精するだけでは物足りなくて」
「おい……っ」
矢島の指も巻き込んで斉藤の指が中に入り込んでくる。まだ柔らかいままのそこは簡単に二本の指を飲み込んだ。
「っぁ、」
「自分で弄ったか?」
熟れた内壁を指が擦る。締め付けるとその感触が自分の指にも伝わり、羞恥が募った。指を抜きたいのに、斉藤の掌が邪魔をして叶わない。
中に出された欲が空気と混ざり、泡立ち音を立てる。鼓膜から犯され、顔に熱が集まる。
持ち主の違う指が前立腺を引っ掻く。ひくりと身体が跳ねるが、男はそれを楽しむように幾度も同じ場所を往復した。
「ッ……っぅ、あ」
「なあ?」
耳朶を噛まれ、軽く引っ張られ。指の動きと連動するように耳の穴に舌を差し込まれ、唾液を含んだそれが鼓膜から直接脳みそに音を届けた。
「ひっ、っァ、──」
ドロドロに溶けた理性をなんとか繋ぎ合わせて、首を振る。絶対に言うものか。
「ノーコメントっ!」
一息で言い切った矢島を見る斉藤は、理解しているとばかりに笑みを深くする。睨みつけるが、それで殊勝な態度になるような男であるはずもなく。
「なら教えておかないとな」
「なに、……ちょっ」
もう一本、斉藤の指が入り込んできて、矢島の指を内壁に押し付けるように挟んだ。そのまま、ぐ、と前立腺を押す。
「ここ、と、その奥」
「ひ──っ」
ぞわ、と背筋を伝って全身に広がる悦に背中を丸めると、斉藤が片腕で矢島の背を支える。肩を引き寄せられ、男の足の間に横向きで拘束されると二人分の体温で空気が熱く感じた。
自分の指なのに自由がなく、与えられるものは強い。
内壁の奥で主張する場所とその周りへの刺激は、確かにいつも斉藤に与えられているもので。ぎゅうと指を食むことをやめられない。
「お前は身体に直接覚えさせたほうが物覚えがいい」
あまりな言い分に睨みつけるが、楽しげな視線が落ちてくるだけだ。
刺激を調整され、緩いと思えるほどの動きだが、自分の指がそれを生み出しているのだと思うと恥ずかしさが募っていく。
観察されるように視線が落ちてくるのを遮りたくて、首と舌を伸ばして斉藤の唇を塞いだ。
「……んぅ、……ふ、」
内部に埋まる斉藤の指が、ゆっくりと引かれていく。けれど抜けきる前に浅いところで左右に広げられ、その感触に身体を震わせた。
右腰に感じる斉藤の熱。欲しいものはそこにあるのに与えられない。矢島の痴態を見て煽られているくせに。熱に浮かされた強い視線が何よりもそれを物語っているのに、次の行為に移らない。
クソ、と内心で吐き捨てる先は目の前の男か自分か。
思考を放棄しながら斉藤の指を追いかけるように抜き、そのまま男の身体を押し倒し跨ると、斉藤が目を見張った。
膝立ちで、先走りを流す自身の熱に指を絡め擦る。焼け付くような視線が矢島の痴態から外れない。それを感じながら左腕を背後に回し、同じように屹立する熱を握る。
「ちんたらしてんじゃねえよ」
「焦らすのもプレイの一種だろ」
矢島の行動に息を呑みながらも、斉藤が挑発するように笑う。両手がふさがっているため、代わりに鼻先に噛みつくとぺし、と額を叩かれた。
「躾のなってない」
「テメェに言われたくねえよ」
矢島の腰を撫でながらの斉藤の言葉に噛みつきながら、視線の誘導に従って腰を下ろす。ゆっくりと内壁を押し広げながら入ってくる硬い熱に息を吐いた。
足を楽な方へと動かしながら、目の前の男に体重をかけていく。それをきちんと受け止めてくれるという信頼がなければ、これより先は怖くて出来やしない。
「大丈夫だ」
唇を軽く吸われながら、背中を撫でられる。同じく吸い返して両腕を斉藤の首に回した。
座位だと、浅い場所ならばまだしも肌が触れるほど深く入れ込めば矢島の主導権は無くなる。
「ん──ぅ、っ、」
自ら奥へと男を招き入れる。胸元から太腿まで二人分の汗で張り付く肌は不快さよりも今ばかりは安堵を矢島に齎した。
矢島の背を抱き、ゆるりと揺する斉藤の動きに身を任せる。
動きは小さくとも座り込み動けない状態だと、普段殆ど触れることのない場所への刺激を敏感に感じ取る。
「痛くないか」
「……ぃじょ、ぶ」
矢島の返答をきいた斉藤が、腰を突き上げてくる。
もうないと思ったそれより更に奥を刺激され、息を呑む。ぎゅうと熱を引き絞り身体に力がこもった。
「あ゛──ッ、」
斉藤の熱でしか触れたことがない場所。
そこを明け渡すこと。
矢島の身体に欲情する男に求められるということ。
自分自身にも向かう独占欲と優越感は身を焦がし、芯を溶かしていく。
柔らかな髪を握ってかき混ぜて。刺激を受けているのか与えているのか判らなくなるほどにどろどろになって。
上も下も粘膜同士を触れ合わせて時間感覚を無くしていくと、残るのはお互いの体温と呼気だけだ。
「も、ぉ……イく、っ」
二人の腹筋に挟まれた陰茎から欲を吐き出せば、目の前の顔が歪む。汗に濡れて、本能をむき出しにした男の表情。そんな斉藤の顎を掴んで唇を合わせ、舌を触れ合わせた。
噛んで、吸って。そんな触れ合いの最中に内壁を刺激されながら斉藤の欲が弾けた。吐き出された呼気ごと飲み込めば、一ミリも隙間などない。
まだ足りない。
それをわざわざ口にせずとも同じ思いだろう。
日が昇れば後悔するだろうことを考えながらもやめる気にはなれず、目を閉じて身を任せた。