2023年3月18日
一度口で達かされ──ビジュアルからして様々な意味で暴力だった──、それ以降前は時折思い出したように触れられるだけで、ほとんど放置されている。代わりに、ずっと尻の中に指がある現実にめまいが起きる。
腹の奥、触れられない場所に溜まっていく熱。皮膚の上から爪を立て散らそうとしても出来ないもどかしさ。無意識に腰を捻り、逃げようとしても、上にいる男がそれを許してくれない。
「……っ、ぁ、ッ」
全身から汗が吹き出て、服がまとわりつく。あつい、とうわ言のように呟く矢島に対してどう思ったのか、斉藤が一度指を抜き、片足に引っかかるスラックスを掴んだ。
すうと涼しくなり、息を吐く。絶え間なく与えられ続けていた刺激が止まり、思考が戻ってきた。熱に浮かされるというのはきっとこういうことだ。
「汗かきだな」
「……新陳代謝がいいんで」
太腿を掌で擦られると、汗で濡れる肌が張り付く。矢島の答えに口元を緩めた斉藤は、そのまま太腿をすくい上げ皮膚に軽く歯を立てた。膝横から身体の中心に向かって、汗を拭うように舌が蠢く。
「は……」
股関節の窪みを軽く擦られた後、辿った道を遡っていく。
今までとは違う緩い刺激。粘膜を直接触れられていると思考が入る隙間がないのだが、皮膚を柔く愛撫されるだけだと色々と見えてしまうし、考えてしまう。あの俺様課長が矢島の脚を舐めているという状況が信じられず、目が離せない。
膝まで唇で辿った後、関節を畳まれる。何をするのかと視線を外せない矢島を見下ろし、笑った斉藤は空気に触れて冷えたふくらはぎに掌を這わせ、そのまま残っていた靴下に指を入れた。
つい、と布を剥がすように指が踊る。
「なに、を」
五指を使い、ゆっくりと布が剥ぎ取られていく。足裏の弱いところを指が這い擽ったい。
無駄に時間をかけて取られた布は、そのまま床に落ちた。
だが、その行方よりも。
「ちょっと、ま──ッ!」
見せつけるかのように矢島と視線を合わせたまま、斉藤は素足に顔を近づけ親指を口に含んだ。
ぞわ、と背中から駆け上がってきたのは嫌悪か快楽か。
「やめろ変態!」
柔らかく這う舌と、軽く吸われる感覚。初めてのそれに混乱した頭が、拘束されていない左足を繰り出し男の脇腹を蹴りつけた。
だがその攻撃が許されたのは一度だけで、膝をソファに押し付けられて身動きが封じられる。
「ゃ、め……ぇ」
指の腹、股の間、爪の隙間。余すこと無く全てに舌を這わせられるとぞわぞわと悦が身体を貫いていく。親指に満足したらその隣へ。そこが満足したら更に隣へ。右足が終われば左足へ。
まるで大事なものを口の中に隠すかのように、初めて触れるものを慈しむように、余すこと無く舌が触れる。
十本の指が唾液に塗れる頃には、小さく喘ぐことしか出来なくなっていた。
「かわいいな」
「も、やめ……」
羞恥なのか、別のものなのか判らない感情に首を振るが、斉藤はそれを無視して熱の集まる中心へと指を這わせた。
「ん……ぁ、……っ」
「無駄な力が抜けたから少しは楽になるだろ」
言いながら、後ろへと指が潜り込んできた。
時間を置いたことでその指を強く意識してしまい、探る感覚がダイレクトに伝わる。
「あ……ぁ、あ」
内部が細かく痙攣し、指を締め付ける。それに逆らうように斉藤が奥へと指を進め指の腹で壁を引っ掻くと下腹部が揺れた。
「やめ、……ア、んん、なんかへん、だからやめろ……!」
上半身が逃げを打つが、下半身はがっちりと固定されていて、結局逃げ場などなく。矢島がやめろと言ってやめるような男でもなく。変だと思った場所を的確に何度も擦られる。
そうしながらも斉藤の下半身が矢島の太腿をぐりぐりと押す。そこはあからさまに固くて、ここまでされながらやっと、こいつは本当に自分で興奮しているのだと気が付いた。
「──ッぁ、あ……」
気が付いたことがトリガーとなったのか、斉藤の指が触れる場所から身体全体に悦が広がり、爆発した。
一瞬飛ぶ視界と意識。息を詰めその感覚をやり過ごすが、内部の指が少し動くだけで再びふわりと感覚がブレる。
「ゃ、まてっ……んぁ、あっ」
自分の身体に何が起こっているのか判らぬまま、斉藤に翻弄されていく。
矢島に触れる熱だけが妙にリアルで、なのに自分の思考はどこか非現実。一度落ち着きたいのに、斉藤がそれを許してくれない。
「可愛い、矢島」
頭の下にあるクッションを掴み、耐える矢島の耳に届く睦言はどろどろに甘い。課長の、そんな声初めて聞く。いつも矢島を小馬鹿にしてムカつくことしか言わないのに。
「ちが、ぅ……、っ」
「何が」
「は、ぁあ、あ」
百八十に近い身長と強面の顔面など可愛くないと、そう言いたいのにふやけた口を斉藤の指が広げる感覚に、覚えてきた悦が邪魔をして言葉にならない。
この部屋に入る前までは知らなかった感覚を、丁寧に斉藤が矢島に教えていく。
「も、いやだ……ッ」
気持ちがよくて、同時に怖くて思わず漏れた弱音に斉藤は一度目を見張り、苦笑しながら上半身を屈めてきた。
「可愛すぎるな……」
唇を塞がれ、優しく舌が触れ合う。吸われて絡まれて引っ張り出されて、慰められて。
「もう少し我慢しろ」
「……ッ、ひ、ぁ」
くち、と音を立てて唇が離れ、同時に下腹部の指が再び動く。
もう少し、と融けた頭がそれだけを理解して小さく頷くと、眼の前の綺麗な顔が笑った。