2022年2月20日
OAフロアは、歩くと案外音が響く。革靴で気を使わずに大股で歩を進めればなおのこと。
「梶次長、お静かに」
敵に回したくはない御局様社員におざなりに謝罪の手を振り、しかし歩みを止めることなく目的地へ急ぐ。何せ時間が無い。
営業部のフロアに駆け込み、近寄りながら席を見るが、そこは空席。ち、と舌打ちしながら進路変更。視界に入った時計の針はあと五分を示している。
「松田」
「あれ、梶さんどうしたんですか」
自席で資料を纏めている元部下に声をかけると、すぐに反応して顔を上げる。こういうところがそつがないということなのだろうと思いつつ、口を開いた。
「神谷は」
「神谷次長ですか? Y社と打ち合わせが、ああちょうど終わったみたいですよ」
背後になった入口を視線で示す松田に背を向け、再び入口、目的人物へ近づく。部長と話す男は、足音で梶に気付いたのか、こちらを見た。
腕をのばしノットに指を差し込み、一気に引き抜く。シュル、と軽やかな摩擦音と、驚く神谷の顔。
「借りる」
すれ違いざまにそのまま布を剥ぎ取り、自分の襟に添わせて意識せずとも勝手に指がノットを作っていくのに任せながら会議室へと急いだ。
神谷への言い訳はあとで行おうと、そう脳みそに刻みつけて。