朝涼

2022年2月21日

 眠りは深い方で、けれど短時間。
 二十四時間や時差というものを理解しているはずなのに、綺麗さっぱり無視してくださる弁護士の先生方のおかげで梶の業務用携帯は何時でも鳴る。そのため、個人携帯よりも繋がる頻度が高いため、ほぼ私物化しているが、有難いことに会社はそれを見逃してくれている。問題を起こしたら一発アウトなのだろうが。
 そんなスリリングと背中合わせの睡眠時間。短時間で寝て回復して動く、がここ数年のお約束になっていて、一度寝入ったら外部刺激がないと起きないが、外部刺激があれば起きる、という術を身につけた。

 連続する電子音。外部刺激を耳が感じ取り、暗闇から意識が浮上する感覚。一定の場所を過ぎた瞬間、瞼が自然と開いた。

「おはよ」

 薄いベージュのシーツと、薄い緑色の枕カバー。その色の向こうから声を掛けられ、視線を上げた。眼鏡がないと随分と幼くなる顔は、微かに笑んでいるのが見える。どう見ても機嫌が良さそうな気配。
 ちらりと見える日に焼けていない肌と、それを覆うカッターシャツ。半分寝ている脳みそは、もっと見てえなと考え、無意識に腕を動かし、白色を持ち上げていた。肌色の面積が増えて、昨日散々可愛がった場所が見られて満足。
「何すんの」
「隠れてたから」
 ずりずりと上半身をずらし、その肌色の上に乗っかると、温かな体温を感じる。
 腰に腕を回して優しい体温と嗅ぎなれてきた体臭を肺に入れる。このまま二度寝してしまいたい。
「ねっむ……」
「擽ってぇよ、梶」
 頭を押し付けると、腹筋が震えて神谷の掌が梶の髪を掬いとった。
「月曜日ですよ、梶次長」
「休出した次の日休みてえよ神谷次長……」
 休日なんてあってないようなもの。ちったあこっちのカレンダーを把握しろと全方位に言って回りたい。言ったところで改善されるわけがないのだが。このご時世に酷いブラックだ。
「お前に次長って言われると違和感すごいな」
「それな」
 自分で言ってもしっくり来なかったのだから、言われた方も同じだろう。同期であっても役職名をつける連中は素直に尊敬する。自分がやるのは面倒くさい。
 話しながら頭を撫でられて、体温と匂いを堪能する間に脳みそも起きてきた。このまま愚図っていたら出勤がギリギリになるだけだと、覚悟を決める。
 腰を拘束していた腕を離してシーツに着き、身体を伸ばして唇に触れ、呼吸を交換してから静かに離れて本格的に起き上がった。

「しゃーねえ、働くか」
「頑張れよ仕事人間」
「だから俺は仕事人間じゃねえっつってんだろ」

 今週のどこかで、またこの肌と熱を分かち合えるくらいに暇だと良いなと、そんなささやか願いを持ちながら、二人一緒に朝の支度に取り掛かった。