2022年12月25日
「俺はしたい」
「……されたくない」
ベッドの上に座っての平行線の会話。いつもなら引く梶が、今日は引かない。
「俺が下手だからか」
「それは関係ない」
それだけは違うときっぱりと否定すると、神谷の本気を感じたのか、梶の空気が少しだけ緩む。だから、ここでその話は終わりにしよう──そう言いたかったのに、梶が伸ばしてきた指が神谷の唇に触れ、言葉が封じられた。
「お前が俺にするのはいいのか」
「それは、まあ……」
それ以外を望んでいない、とは言わなかったが梶には伝わっているのだろう。眉間の皺が濃くなる。それを見たくなくて、唇に触れる人差し指を口に含み、軽く吸った。
その行為について話している最中に、コレは挑発行為だろうか。そんなことを思いながら、節だつ指を咥内に招き入れ舌を這わせると、その指が神谷の舌を軽く引っ掻いた。
「お前がさせねえ理由は察してる」
「……」
ゆっくり飲むと抜かれる指は、そのままもう一度神谷の唇に触れ、表面を撫でていく。
「白々しい台詞言わなくなったのは、お前の誠意だと思ってるけど」
「……」
この部屋でした初めての時のことを引き合いに出され、顎を引き睨みつけると、梶の指が宥めるように神谷の頬を擽った。
「それが理由ならさせてほしい」
「……」
「それとも、それ以外の理由があんのか」
梶の、真摯な言葉に罪悪感が生まれる。
理由なんて、それ以上にない。単に、神谷にとっての防衛術というだけなのだから。
だからこそ容易に頷くことが出来ない。
もっと軽く考えたらいいのだと、梶ならばきっと、大丈夫だと、考えてもその自分の思考に納得出来ない。だというのに、今はその納得が出来ないことにも罪悪感が生まれてしまって、八方塞がりだ。
「そこまで嫌か」
「嫌というか、慣れてないから」
主導権を握ることで保つことが出来る安泰は、確かにあるのだ。それを知っていて、そこにいるからこそされることへの忌避感が強い。
そこを一度でも離れて、いつかの未来梶がいなくなった時戻れる自信がない。
勢いではじめて、それに後悔はなくとも冷静になれば考えてしまう。梶は、神谷とは違うということを。
梶が不誠実な人間でないことは判っていても、だからこそ、別れがある時にはどうしようもない時だろう。
ずっと一緒になんて、甘やかな未来を信じられるほど神谷は若くないけれど、梶と別れた後を楽観視出来るほどお気楽でもない。
「俺の、……怒るなよ、意気地なさのせい」
神谷の言葉に梶は怒らなくて、代わりに神谷の身体を強く抱きしめた。ゆっくりと二人でベッドに沈む。
「離さねえよ」
「……ああ」
信じたいと願う気持ちと、信じられないと叫ぶ思考。面倒くさい性格で本当に嫌になる。
今迄が都合のいい男として扱われるか、本気になりかけると裏切られるか、そんなことばかりだったせいで出来た自己防衛。
自らワンナイトを呼び込み、主導権を握ることで守ってきた心。
ごちゃごちゃ考えるのをやめたと言っても、分裂する思考に嫌気がさす。もっと若ければ衝動的にいけるのに。
「一方的が嫌ってんなら、一緒に」
神谷の髪を梳きながら梶がそんなことを言い出す。思わずそちらを見ると、真剣な顔をした男の顔。
「────」
相変わらず目の下にくまがあって、少しだけ伸びてきた前髪が影を落としている。イケメンというよりは男前だなといつも思う顔。
そんな男の提案に、ふは、と笑ってしまった。
「そこまでしたいのかよ」
「……悪ぃか」
笑ったことで気が抜けて、もういいかという気持ちになった。
梶の首に腕を回して距離を無くし、吐息を交換し、そっと囁いた。
「悪くない提案だな」
●
口の中の熱と、下半身からの刺激。脳が違和感を訴えて微かな不快感と、それすらも内包する快楽に、頭がクラクラする。
いつも以上に梶が時間をかけて、神谷の身体を解していったおかげか、実際身体の向きを変える段階になってもそこまで逃げたくなる感覚はなかった。それにほっとしながら、目の前にある緩く兆した梶の欲望を口に含むと、同じように自身の欲も粘膜に包まれた。
ベッドに横たわる梶の上に逆向きで跨る形は、いつもと違う景色で少しだけ落ち着かない。
することにおいては神谷の方が慣れているが、されることにおいてはどっちもどっちだ。いっそ梶の方が慣れている可能性すらある。
「……ん」
いつもとは違う向きで少しのやりにくさを感じながら、手と舌と唇で育てていく。
小指で陰毛を擽ると梶の腰が引ける。それが楽しくて繰り返すと、神谷の欲の先端を強く吸われ、抗議された。
重さのある袋を手で転がしながら、舌で血管を軽く潰すように下から上へと這わせていく。根本は梶の匂いが強くて、唇を当てながら呼吸をすると、それだけで頭の芯がぼんやりとする。
「顔見れねえと、案外つまんねえな」
「お前なぁ」
口を離して下半身の方を見ると、お互いの身体の隙間から、呆れた顔をした梶と目が合った。
「だって、耐えてる梶の顔見るのが好きだし」
先走りの雫を舌で拭い、先端を軽く吸う。鈴口に舌先を押し付け、小刻みに動かすと、梶が息を飲んだ。その息が自分の熱に当たる不思議。このまま達かせたら、梶は怒るだろうか。それとも仕切り直しだと言われるだろうか。
そんなことを考えながら咥内に熱を招き入れ、竿を指で包み擦る。
梶の味と匂い。咥内でいっぱいのそれをしゃぶり吸って育てていく。梶を愛撫しながらも自分の身体が熱を帯びていくのが判る。
「──は、っんん」
夢中になっている最中。唐突に下半身に強い刺激が訪れてひくりと身体が反った。
カリに唇を引っ掛けるように先端を包まれ、舌で包まれながら咥内に招き入れられる。唾液を纏った舌は、それだけで気持ちが良い。
梶の咥内はいつも熱くて、キスの時それが気持ち良いのだが、口淫の時にもそれを感じるとは思わなかった。
ゆっくりと上下され、絡む舌が時折先走りを拭う。ローションが絡んだ指先が蟻の門渡りを往復すると、擽ったさに腰が浮く。
「~~ンんぅ……っ」
じゅ、と強く吸われ、お返しに咥内の熱を唇で食み、上顎に擦り付ける。無意識にだろう、強請るように梶の腰が動くのに気を良くして、同じ行為を繰り返しながら外に出ている幹は指で愛撫した。
する前は色々と考えたのに、一度始めてしまえば気持ちが良い。現金だなと思うが、男なんてそんなものだ。
梶の指がさらに奥へと進む。そっちは卑怯だろうという気持ちと、期待する気持ちから腰が緩く前後する。
咥内から熱を抜いた梶は、両手で神谷の腰を掴み、ぐ、と下へと下げた。
「な、に──!」
尻を左右に広げられると同時、湿った吐息を感じてびくりと身体に力が入った。
「ばかぁっ、あ……!」
梶の太腿に爪を立てて抗議をしても、下にいる男は止まらない。固くした舌先と指で口の部分をこじ開け、濡れた舌先が潜り込んでくる。
今迄の相手に口淫を許したことがないということは、これも初めてのことで。流石に羞恥から軽くパニックになる神谷を宥めるように、舌がゆっくりと出入りする。
……どこでこんなこと覚えてきたんだ、こいつは!
少し前、男同士のセックスについて少しは勉強しろと軽口を叩いたことがあったが、存外真面目な男は恐らく真面目に勉強したのだろう。そのついでに、要らぬ知識まで仕入れている可能性がある。
勉強しろでなく、教えてやると言えばよかったと後悔してももう遅い。梶は、舌で口の部分を刺激しながら指で陰茎を擦る。同時に与えられる刺激に、声が抑えられない。
出したいけれど、梶の身体の上で出したくない。解放を耐えるとガクガクと足が震えた。
「も、ぉ、かじ……っ」
「いっていいぞ」
薄い皮膚を軽く食まれながら、指が中を探る。前立腺をゆっくりと押し潰され、喉から悲鳴が漏れる。
指はそのまま、梶の唇が神谷の陰茎を再び咥内に招き入れる。少しだけ不器用に、ぎこちなく同時に動かされると、その引っかかりが神谷を飽和へ押し上げた。
「んぅ──……!」
後ろは指を締め付け、前は咥内に締め付けられ。
浮いた涙が梶の肌へと流れていくのを見ながら、息を吐く。
上顎と舌で押さえるような動きから、出したものを飲まれたことは判ったが抗議する気にはなれず、代わりに目の前にある陰茎を口に含む。舌全体を使って太い血管を押し潰しながら顔を上下させる。
先端を強く吸い、カリの部分を指で押して射精を促すと、すぐに精が咥内を満たした。
それを飲み込み、流れたものも舌で拭っていく。
「は……」
梶が短く息を吐く音を合図に身体を退かすと、起き上がった男がすぐに神谷を捕まえ、今度は同じ向きで押し倒された。
お互いに青臭い咥内。それが判っていながら唇を重ねる。
……こんなの、普通嫌だろ。
そう思うのに、梶は当然のようにキスをしてきて、嫌悪も感じない。
「ばかかじ」
「あんだと」
鼻先を擦り合わせながらの悪態は、甘く響く。
「嫌だったか」
する、と下腹から萎えたものを掌で撫でられ、腰を捻る。
「や」
下半身は逃げながら、上半身は腕を伸ばして梶を引き寄せて。
「……じゃ、なかった」
恥ずかしかったけれど、嫌ではなかったと。確かな本音で伝えると、梶の空気が少しだけ緩む。きっとずっと緊張していたのだろう。
「けど、こんだけじゃ足りない」
お返しのように、同じく萎えたものをゆっくりと擦ると、目の前の顔に欲が灯る。
梶にだけ聞こえるようにそっと強請ると、応の代わりに指が再び神谷の肌に触れた。