2022年11月16日
身体の相性が良すぎるというのも問題があるかもな、と最近思い始めている。
加藤の下で息を散らす松田は、いつも暫く動くことが出来ない。頭馬鹿になったらどうしてくれる、と必ず文句を言われるほどにぐずぐずになるからだ。今も意識はあるけれど、恐らく理性はまだ戻っていない。
「松田、風呂行く?」
「ん……」
シーツに埋もれる松田に声をかけると、うめき声なのか返事なのか、判断の付かぬ声が戻ってくる。覗き込めば、うつ伏せの状態で目を瞑っていた。 呼吸が少しずつ落ち着いていることは背中の動きで判る。
白く、日に焼けていない上下する背中。 体温が上がっているせいか、肩口が赤くなっていて、そこからグラデーション。
綺麗だな、と思う。
昔から人にも物にも執着がなかった加藤が、三十歳が見えてきた今、初めて心から執着した人。
加藤を嫌って、ライバル視して。
強くて真っ直ぐこちらを穿つ視線と、飾らない言葉。
憧れと執着、羨望と欲望がごちゃまぜになるくらいに、細胞全部が求める相手。
ほんの数分前まで、その背中を撫でたり舐めたりしながら征服していたというのに、もうまた欲しくなっている。
その本能のまま肩に触れると、ひくりと加藤の身体が震えた。
……まだ、熱い。
「ぁ、」
つと指を背骨に沿って這わせると、それだけで溢れる甘い声。一度は立て直した理性がその小さな声一つでぐらりと揺れる。
毎回、こうやってぐずぐずになって、それはとても可愛いけれど大丈夫だろうかと心配になる時もあるわけで。抱かれながら睨まれるのもそれはそれで良いから、あえて背中に触れなかったり、松田が好む場所を外したりということも最近していて、その時の視線の強さもたまらない。
……いや、そうじゃなくて。
松田が加藤の一挙手一投足に反応を返す。そのことに喜ぶチョロさに内心苦笑しながら、けどな、と思考を整理する。
指や舌が這うだけで簡単に理性を手放され、それが当然となると生活大丈夫かと心配になってしまう。加藤の前でだけそうなるのなら大歓迎だが、そうじゃなかったら、と考えるだけで腹の奥がひやりと重くなる。
「かと、あ、あ、やめ」
強い声に、耽っていた思考から引き戻される。声のした方を見ると松田が涙目でこちらを睨んでいた。少し落ち着いていた全身の熱が、 また上がっていて、全身を赤に染めている。
その姿にこくりと唾を飲み込むと、加藤の動きが止まった隙に松田が身体を反転させた。
「人の身体、他事考えながら弄んな」
「うんごめん」
「って、こっち来んな!」
謝りながら松田の上に覆いかぶさると、顔面を掴まれ遠ざけられる。その掌すら熱い。
加藤の中にずっとある熱が、 松田に触れるたび感染っているようで。
その熱は松田から貰うものだから、本人に還っているというべきなのだろうか。
そんなことを思いながら、松田の手首を掴んでどかし視界を確保する。
「風呂の前にもっかい」
「無理だって」
「ひどくしないから」
「ひどかったことしかねえわ」
まあ確かに、と納得しつつ、ではと言葉を変える。
「痛くしないから」
「了承してねえのにのしかかってくんなバカ!」
加藤に真っ直ぐ届く声もいいけれど、 それを生み出す唇に触れたい欲のほうが強く、そのまま呼吸を奪うように塞いだ。