朝涼

恋文の日カトマツ

2024年11月13日

「ん」
 突然差し出されたものを反射的に受け取ってから、何だこれと自分の手の中に移動したものを見下ろした。
 真っ白の封筒の真ん中に松田悠樹様へと書かれていた。その文字の癖は見覚えしかないもので、嫌な予感がしながら裏面を見ると右下に加藤のフルネーム。
「何だよこれ」
「今日ラブレターの日なんだって。語呂合わせと昔の映画公開日」
「で、お前が俺に渡す意味は」
「貰ったことはあっても渡したことないなぁって。俺の初めてを松田にあげられるじゃんと思って書いた」
 ご丁寧に封を閉じるシールは赤いハート。漫画の中で見るような典型的なラブレターだ。こんなもの、学生時代ですら貰ったことはない。女子はデコるのが好きだし、かわいいキャラクターや花が描かれたものをよく選んでいて、貰ったものはそんなのばかりだった。あれはあれで女子の趣味が判ったからいいのだけれど。
「何やってんのかと思えば……」
 松田が風呂から上がった時、リビングのローテーブルではなく、ほとんど荷物置き場に成り果てているダイニングテーブルに齧りついていたため何をしているのかと思ったのだが、まさかこんなものを書いていたとは。どことなく楽しげに見える男を横目に、好奇心が勝ってそのシールを隙間に指を入れて剥がし便箋を取り出した。
 厚さから把握していたが、中に入っていた便箋は一枚だけ。少しだけ角がズレているのがこいつらしいと思いながら開き、改めた。
 上から下まで、余すことなく目を通して。
 そこにある加藤の気持ちをダイレクトに受け取ってから、口を開いた。
「これラブレターじゃねえじゃん」
「……いざ書き始めようとしたら、何にも浮かばなくて」
「おい営業」
 一番上に松田の名前。
 二行目にペンを置いて書くのを迷ったシミ。
 数行空白で、便箋の折り目が着いた真ん中にあるたった一行は、まあ確かに言われたことはなかったなという一言で。
「お前の、バリエーション豊かな告白とプロポーズには流石にいい加減慣れた」
「尽きる前に頷いてほしい、正直なところ……」
「あ? お前の俺への気持ちはつまり尽きるってことか」
 意地悪くそう口にすると、うつむき加減になっていた加藤が顔を上げた。
「尽きない! 尽きるわけない!」
「なら頑張れー」
 便箋を丁寧に封筒の中に戻し、加藤が座るのとは逆の方に置く。そうしてから代わりに缶ビールを加藤に押し付けた。
「松田がさっさと頷いてくれたら済む話なのに……」
 ぶつぶつ言いながらも、しかし喉が乾いていたのかステイオンタブを引いて炭酸を喉に流し込む。
 こちらとしては、貰った一言がそれなりにツボに入ったからこそかなり譲歩した一言だったのだが、それに気付いているのかいないのか。……後者な気がする。
「お前、やっぱ頭いいのに馬鹿だよな」
 そんなところが最近は嫌いでなくなり始めているのだけれども、言うと調子に乗るので言葉は炭酸で流し込んだ。