朝涼

2023年2月14日
イァハーツ3月号、feed.04の回想シーンの前を書こうとして、無粋だなと思ってやめたやつ。

 矢島以上に忙しい男だから、一週間まるまる会わないということだってある。その場合、平日夜に呼び出されることもあるが、こちらだって仕事がある。泊まらずに帰ることだってある。それを引き止められることもない。
 実際のところ、かなり無理して時間を捻出しているはずだ。上司であった頃でさえ忙しくしていたエリート様。本庁へ登り、仕事は増えているはずだというのに、二週間間が空くことがない。
 丸一日休みがあれば出掛けもするが、そうでなければ殆どが即物的だ。立場も生活も考えも何もかもが違うから、その方が楽ではある。こちらに詰めてこられると戸惑いが先立つし、招かれると躊躇してしまう。
 付き合っていると言われても疑問があるし、かといってセフレ扱いというのは気に食わない。
 自分でもどうしたいのか判らない持て余す感情に蓋をしているから、即物的な方が、――良い。

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 首筋や背中は治るより先に新しく噛まれるため、矢島は人前で気軽に脱げなくなった。何度やめろと言ってもなくならない斉藤の噛み癖は、今夜もまた新しく歯型を矢島の肌に刻む。
 そうしながらも指は胸の上を這い、爪先が胸の膨らみを引っ掻き、弄ぶ。擽ったさと少しの疼痛。不快にならない程度の刺激は、下半身に変化をもたらした。
「……っ」
 ただ触れられる、ということに無理矢理慣らされた三月の半ばから、約一ヶ月。思考を奪われてしまえば記憶に残り辛いため目も逸らせるが、触れ合いの最初はそうもいかず、記憶に残るため気恥しさばかりが募る。
 目の前の重たい身体に縋り付くことも、逆に引き剥がすことも出来ずに、唯々与えられる優しくも強引な指と舌を享受する。警察官として、いつ何時でも冷静に、という訓練の成果がこの時ばかりは憎い。頭の一部は熱くならず、ずっとこの行為を客観視しているのだ。
「は、っ」
 腹筋の流れに沿うように指を這わせて、そのまま下着の中に潜り込んでくる。他人の熱が無遠慮に急所を握ってくる微かな恐怖に身体が強ばるのは仕方の無いことだ。
 腰を少し浮かせば、意図を察した斉藤が腕を引いて下着を矢島の足から引き抜き、床に放り投げた。ひやりとした空気に慣れるより先に、再び陰茎に指が絡んだ。
 長い指が根本から先端に向かって這い、余っている皮を寄せるように逆走したあと、くびれを親指が擦る。むき出しにされた先端に乾いた指先は、少しだけ痛みがある。眉を顰めると斉藤が片腕を伸ばして、ローションを手にとった。
 粘度の高い液体を腹に垂らされ、お互いの肌に馴染ませるようにかき混ぜられる。三度触れられると、粘度の膜によって指に遠慮がなくなり、一気に血液が動いた。
「っ、ん、」
 無駄に整った顔が迫り、唇を塞がれる。舌同士が触れ合わせながら、斉藤は矢島の身体にも触れていく。舌と両手、場合によっては足もあわせて別々に動く器用さに翻弄され、じわりと汗が滲んだ。
 暖房の稼働する音の中に粘着質な高い音、そこに自分の声が交じることが耐えられなくて必死に口を掌で覆う。
 これで最後なのだからと上に乗って声を殺すことをやめたあの一夜から箍が外れて戻らないのか、喉から声が漏れ出ることが多くなっていて、油断するとすぐに音として喉が震えてしまう。
「ンぁ――ッ、ぅ」
 そんな矢島を眼前で観察する男は、目元を緩めて顔や首筋に唇を落としていった。
 上半身の優しい触れ合いとは別に、下半身は途切れない愛撫が続き、だからこそ身体はどちらを追えばいいのか判らずに肌が粟立った。
 血液が集まり、起立した陰茎から更に奥に順番にローションが広がっていく。