2025年7月25日
「さきっぽだけでいいですから!」
――そう叫んだ年下の恋人の頭をスパンと引っ叩いた私は、決して間違っていない。
布団は利吉くんが選んだもので、夏用は風が通って気持ちがいい手触りものだ。この上でゴロゴロしながら本を読むのも好きだし、利吉くんに抱かれる時頬に触れる優しさも好きなお気に入り。よく洗濯することになってしまうのは申し訳ないとは思うけれど。
そんな掛け布団を身体に巻き付け、ベッドに腰掛けるように座りながら床に正座する利吉くんを見下ろす。
いくらカーペットを敷いていようとも、硬い床が近いから痛いだろうに、大人しく両手を揃えて俯きながらも正座を貫いている。何せ全裸だ。いや、こっちも同じように全裸ではあるのだが、掛け布団を身に纏っている分防御力は上がっている。利吉くんはそれらが一切ないすっぽんぽんなのだが、本人はそれどころではないようで服を着たいという言葉はまだ出ていない。
「言い訳があるなら聞こうか」
「だ……だって、お兄ちゃんがだめっていうから」
声は震えていて、太腿にぽたぽたと雫が落ちているが、どんだけ泣いているのか。泣きたいのはこっちだ。
ほんの数分前まではいつもの夜で、くっついてくる利吉くんに対してその気になって、私だってそのつもりで触れたり触れられたり、舐めたり舐められたり、キスをしたりくすぐられたりと恋人にしか触れさせない場所に触れてもらって、同じように私にしか許していない行為を利吉くんが受け入れて。本当に、その時までは最後までするつもりだったのだが、挿入直前に明日朝早いことを思い出したのだ。だから入れるのは駄目と言ったら、最初の言葉が返ってきた。
「全裸で号泣してるイケメンって、なかなかすごい絵面だなあ」
流石に泣いている状態で勃起状態は維持出来ないのか、勢いをなくして股関節の上に乗っている。ちょっと可愛いと思ってしまうのは惚れた欲目だろう。
ずび、と鼻をすすってこちらを見上げてくる利吉くんに思わず吹き出しながら、自分の横を叩くと、のそのそとにじり寄ってきて長い腕が私の身体に巻き付いた。
「なんで入れちゃ駄目っていうんですか……!」
「だって明日起きれなくなっちゃうし」
すでに日付が変わっている現在、あと三時間寝られるかどうかというところなのだがここで利吉くんを放置して寝るのは流石に忍びない。だからせめてペッティングで楽しめたらとも思うのだが、利吉くんがそれどころではなさそうでさてどうしようか。
「さきっぽだけでいいですからぁ……」
「まだ言うか」
ぺし、と利吉くんの後頭部を叩くと、ぐずぐずと鼻を啜りながら肩口に懐いてくる。涙で濡れる感触がちょっと気持ち悪い。……言わないけど。
「大体さ、利吉くん」
後頭部に添えていた掌をゆっくりと下ろしていく。
首の後ろ、鎖骨の間、背中を指先でくすぐると利吉くんの肌が粟立つのが判った。唇を彼の耳元に近づけ、ふふ、と笑う。
「さきっぽだけなら、いいよ」
小さな声で、利吉くんの鼓膜に直接言葉を届けると、私の身体を抱く腕に力がこもるのが判った。私の身体を覆う上掛けを利吉くんが掴んで落とす。その手が更に動いてこちらの身体に触れるより先にぱっと離れた。
「って言ったところで止まれないでしょ」
「お兄ちゃん……!」
下を見ると、あんな挑発でもしっかり反応しているのが見えて、若いなあと思いながらも触れた。
「私だって絶対物足りなくなるし。けど入れちゃうともっと欲しくなっちゃうし」
芯を持ち始めている利吉くんのものを握ると、利吉くんもこちらの熱に触れてくる。顔を上げるとすぐに唇を塞がれた。ゆっくりと舌を絡めて吸いながら、お互いの熱を擦り合う。
一度は引いた熱は、しかし身体の奥に燻っていたためにすぐに温度を上げていく。すぐに固くなっていく利吉くんの熱の根本をくるくると撫で、そこから上へと向けていく。くびれ部分を爪でひっかくと、利吉くんの腰がびくりと震えた。唇を合わせたまま笑うと、仕返しのように先端をほじられる。
「ふ……、っ」
「半助さん……」
気持ちよさが身体を支配して、頭がぼんやりとしてくる。瞼を開けると目の前にはキレイな顔。まだ目尻に涙が残っていて、キラキラ光っているのを見てイケメンは涙までキレイだなぁと思いながら、ぐいと利吉くんの身体に腕を回し、そのまま彼の太ももをまたいで座った。
「いれるのは、また今度……な」
腰を近付け熱を触れ合わせようとすると、利吉くんが私の腰を引き寄せる。
そうして重なった熱を二つ一緒に握った。
「重たいだろうけど、我慢してよ」
「半助さんに乗っかられるの好きなので、大歓迎です」
「変な子」
利吉くんよりも体格も体重もいい男だというのに、それがいいだなんて。しかも兄弟同然で育ったのに。こっちは未だにふとした時、本当に私でいいのか、間違っているんじゃないかと考える時があるのに、利吉くんはそんな不安を感じ取るのか、ただただ真っ直ぐ私を慕ってくれる。
「今度っていうのは……また週末?」
もっと早くに次がしたい、という気持ちを前面に出してくる視線に苦笑する。素直なのは利吉くんの利点で、まあそれが先程のように行き過ぎる時もあるのだけれど、基本は可愛いと思ってしまうのだ。けれど、聞けない願いというものもある。
「平日はだめ」
「――……」
「可愛い顔してもだめ」
ちゅう、と唇に吸い付いて、その距離のまま秘密をひとつプレゼント。
「だって、抱かれた次の日はすぐに君のこと思い出すだけで気持ちよくなっちゃうから」
「――――」
私の言葉に顔を真っ赤にして絶句する年下の恋人が可愛くて、もう一度キスをしてから二人で気持ちよくなるために触れ合いを再開した。