2022年3月17日
エレベーターを上がりながら思うのは、午前中に見た神谷の姿。目元を染めてキスだけでは物足りないと視線で訴えてきたときには本気でその場で押し倒そうかと思った。そんな本能を理性がぶん殴ったお陰で実際はやらなかったが、十年前に同じ状況に陥っていたら本能が勝っていたような気がする。
それでもそのまま離すのを惜しんで夜の約束をして。
そのせいで逆に一日落ち着かない羽目になったのだが。
夕方にあった営業二部と共に出た打ち合わせは、始まる前までは神谷の顔を見たらどうなるかと思っていたのだが、始まってみたらそんな余裕もなくなるほどの惨状で。……いや、思い出すのは明日にしよう。今日はもう思い出したくない。
頭を振って思考を切り替えたところでエレベーターが止まった。
キーケースを取り出しながら廊下を歩き、2103号室の鍵穴に鍵を通して中へと入った。
どく、と身体の奥で期待が鳴る。
お行儀よく。なんて理性を今度は本能が投げ捨て、リビングへと足を向ける。
スーツを脱ぎ、シャツとスウェットでくつろぐ神谷の首筋に残る自分が付けた痕を見て、ああもう無理だなと冷静に判断して近付き上から覆いかぶさって唇を奪った。驚き目を見開く姿を間近で見ながら腔内を弄り、同時にシャツの中に掌を入れ、胸元に触れる。
「おい、流石に早急すぎるって」
「最後までしねえから、少し触らせてくれ」
「……、」
唇から首筋へと顔を移動させて、くん、と匂いを嗅いだ。神谷自身の体臭に自分の欲が刺激されるのを感じ取りながら、熱い身体を順番に愛撫していく。
昼間につけた痕に口付けもう一度吸えば、神谷の肌が粟立った。
今日一日この男は冷静な仮面の下で何を考えて仕事をしていたのだろうか。こんな痕を隠しながら。
「は……」
神谷が梶のスラックスのホックを外し、同じように下着越しに欲を刺激してきた。
お互いに体温を上げながら呼吸を交換し、肌に触れる。
気持ちが良くて、心地良い。
神谷にシャツの背中を握られ少し首が絞まるが、それが余裕の無さを感じ取らせて優越感すら感じるのだから自分の頭は大概湧いている。
風呂に入ったあとだからか、何時もより水分の多い肌に指を滑らせ、舐めて吸う。ここ一ヶ月まともに触れ合っていなかったから、飢えた獣が暴走している。
「、かじ」
神谷の指に力が入り、耳元で掠れた声がこちらの名を呼ぶ。
元々お互いに限界だったところに昼間の触れ合いで、表面張力ギリギリを保っていた欲は二人きりのプライベート空間によって溢れて止まらなくなっているのだ。
それが梶だけでなく神谷も同じなのだと、匂い立つ悦の気配を感じ取りそう思わせた。
梶の耳元で小さく息を呑み、身体を固くして欲を吐き出す神谷の肌を噛みながら、同じように彼の掌の中に出す。
籠もった熱で頭がくらくらする。それでも触れて出した分少し満たされたのは事実だ。
「悪かった」
目元に口付けを落として立ち上がり、ティッシュを箱ごと持ってきて、神谷の掌を拭った。無言で梶に世話を焼かせている男の顔は赤い。
「風呂入ったばっかだったのに」
「……一緒に入るか」
「入るから連れてってくれ。歩くの気持ち悪い」
下着の中に出したわけだからそれはそうだろう。こういう時、経験値の違いを思い知る。
「……悪かった」
今度は欲を出させた場所のことで謝ると、神谷が梶の首に腕を巻きつけ鼻先に歯を立て、唇も噛む。痛くはないが不満を前面に出す態度。視線を合わせると額同士がくっついた。
「四十近いのにがっつくなんて、俺らまだ若いな」
「……」
頬や唇で受け止めるキスは柔らかく、少しだけ落ちた気持ちを優しくすくい取る。そんな神谷に甘えてすらりとした身体を抱きしめた。
「風呂の中でする?」
「……してえ」
本音を隠さずに言えば、レンズ越しの瞳が細くなる。
梶の欲を受け止めることを肯定する神谷を抱き上げ、リビングから風呂へと足を向けた。
夜は始まったばかりだ。
しなやかな肢体を存分に愛そうとそう思うだけで、年甲斐なく欲が震えるのを感じた。