2023年2月14日
Gのお二人
バレンタインは夜に盛り上がるためのイベントでしょ、とは無駄に顔の良い部下であり、恋人の言。
日本は企業が女性から男性へチョコレートを贈る日としたため、この時期はピンクと茶色に染まることを考えれば、言っていることが間違っているわけではない。
部下を持つようになって数年、有り難いことに社内の女性たちから、毎年チョコレートが贈られるのも恒例となってきたし、そのお返しを渡すのも恒例になってきた。とはいえ、それなりに人数のいる企業だ。女性陣がお金を出し合って部署全体に配られるチョコレートに対して男性側が一人ひとりお返しをするとなると、負担が違いすぎるということで、長谷川の会社はバレンタインもホワイトデーもそれぞれ金を集めた上で代表が買いに行き、それを配るという形で落ち着いている。
ただし、弊社が誇……っているのかどうかは知らないが、有名人、片桐に関しては渡すのは自由だがお返しを期待しないこと、という協定が結ばれている、らしい。
違う部署であったときや、関係が変わる前までは王子のことだ、なんだかんだ言いながらお返しをするだろうと思っていたのだろうが。
「返すわけないじゃないですか」
何を言っているのかとばかりの笑顔で言われてしまえば、それ以上何も言及が出来ない。どこまでもぶれない片桐の日中の見事な王子面の強固さを実感する。
長谷川も騙されていたとはいえ、本当によくもこの性格で今までやってこれたものだ。要領がいいというレベルではないだろうに。
「今までもらってたチョコはどうしてたんだ?」
「さあ?」
朝からずっと、仕事の合間にチョコレートを手渡され続けている片桐は、毎年のこととはいえうんざりしてきているのが目に見えたので、少々職権乱用な気もしつつ、上司権限で片桐を昼に連れ出したのが三十分前。この日に限っては、次元が違いすぎて男として嫉妬も起きない。むしろ同情する勢いでチョコ攻めをされているのだ。
助かりました、と笑顔で言われて悪い気はせず、二人で定食屋に入って昼定食を食べた後。帰り道で気になって話題にあげたところ、片桐は首を傾げた。
「その時付き合ってた女が処分してたんで、詳しくは知らないです」
「…………」
最低だなと言うべきか世界が違うと言うべきか悩んで、結局答えが出ずに黙った長谷川に何を思ったのか、片桐が慌てて言葉を重ねた。
「俺が言ったわけじゃなくて、あっちが勝手にやってたことであってっ」
「住む世界が違うなぁって思っただけだ……」
「こっち、視線こっち! 長谷川さん!」
必死な片桐を見るのは嫌いではないが、機嫌を損ねられてもそれはそれで面倒だと視線を戻すと、強張っていた肩を戻した片桐が、長谷川の指をするりと撫でる。
「今日もらったのは全部捨てるので安心してください」
「そうじゃない!」
王子スマイルでなんてことを言うのか、この男は。話題にしなかったら、長谷川の知らないところで女性陣からのチョコが燃えるゴミとなっていただろうことを考えると、今話題にしておいて良かったと、心から思う。
去年、ちらりと見たのはダンボールいっぱいのチョコレートだった。その時はまだ単なる上司と部下で大変だなぁと思ったくらいで、そのチョコの行方を考えてもいなかった。封を切られることなく燃えていたったであろう贈り物のことを考えると、一年前のことであっても流石に心が痛む。
「今年はせめてちゃんと開封しなさい」
「……」
「面倒くさいって顔をするな」
「だって、どうせ食わねえのに」
面倒くさがりの性格も重なって零か百かで考える癖がついている片桐は、食べないのならそのまま捨てるという思考になるのも判らないでもない。だが、それを許容出来るほど長谷川は達観していないし、女性陣の好意を無碍にする場面を見逃すわけにもいかない。
「渡して満足してるのばっかりなんですから、その後のことまで考える必要ないでしょ」
「俺の良心が痛むんだよ」
本心からそう言えば、片桐が長谷川の顔を覗き込み、唇を曲げて笑う。
「ほんと、めんどくせえ性格。もっとテキトーでいいのに」
「なっ」
「それが出来ない直幸さんが好きなんですけどね」
ストレートに落として上げられ、二の句が告げられない長谷川を前に、片桐は笑みを深めた。