朝涼

01:うなじ

 日付変更直前に、神谷のマンションに帰ってきた梶は、そのまままずは風呂に入った。
 気温の高さと、建物内の冷房に強さ、それに加えて元来持っている新陳代謝の良さのせいで、汗臭い状態だ。肌に張り付くシャツと、皮脂の汚れが気持ち悪い。腹は減っているがそれよりもさっぱりしたかった。
 熱めの湯に打たれ、全身を洗って脱衣場に戻ると、風呂場よりは冷えた空気が気持ち良い。全身を拭いてから、替えの服を持ってきていないことに気がついたが、どうせ家主は寝ているのだからと、バスタオルを腰に巻いて脱衣場を出た。
 ぺたりと張り付く足の裏。なるべく音を立てないように歩き、静かに寝室のドアを開けると、そこはやはり明かりが落とされていた。
「おかえり」
「起こしたか」
「うとうとしてた」
 ベッドの上の塊は起き上がることなく、少しだけ滑舌があやしい状態で口を開いた。それを横に、下着だけ履いて隣に寝転ぶ。
「めしは?」
「ん……」
 減ってはいるが、一度寝転んでしまえば起き上がるのも面倒くさい。
 目の前にある背中を向ける神谷を引き寄せ、腕の中に囲った。
「暑い」
 文句は黙殺し、襟足を指でかきあげてうなじに口付けた。白いうなじを目の前にすると、吸い込まれるように触れてしまう。神谷は、そんな梶を拒否することなく、腕をあげて濡れた梶の髪に指を通した。
「あまえたか、たっちゃん」
「疲れた……」
 新人がやらかして、その尻拭いが入ったためいつも以上に怒涛だった。少し前までならば、こんな時会社に泊まっていたが、今はそんな気にならずにこうしてここに帰ってきている。会社で仕事をしていたほうが、やるべきタスクは減ると判ってはいるが、そうしたくなかった。日が昇ったらまた怒涛な仕事量に翻弄されることは判っている。だからこそ、今くらいはプライベートを堪能したい。
「お疲れ」
 何があったのか、同じ次長としての立場を持ち出すことも聞くこともせず、ただ甘やかしてくる神谷に、身体から力を抜く。そこにある信頼が有り難く、同時に愛おしくなり囲う腕に力を込めた。
「明日ちょっと早く起きてどっかで朝飯食ってくか?」
 神谷の提案に、うなじに唇をつけたまま頷くと、くすぐったかったのか神谷の肩が揺れた。それでも梶を引きはがすことなく、神谷は腕の中で大人しく梶に身体を預けたままだ。
 精神的にも肉体的にも疲れているが、こうして触れ合い甘えを許されているだけで身体の奥が緩み、眠気がやってくる。
「おやすみ梶」
「おやすみ……」
 柔らかい神谷の声に誘われるように、深く、眠りに落ちていった。