朝涼

02:肩甲骨

 正常位より後背位のほうが動きやすくていい、と言われていたし、実際そのほうが腰への負担も少ないということが判っているため途中で後背位を挟むようにしている。元々梶に主導権があるような、ないような、そんな状態が多いセックスだが、神谷が得意という体位だとなおさらその傾向が強い。
 引き込まれるような、持っていかれるような――気持ちよさに頭の芯が痺れるような感覚。神谷の中はいつもそうだ。まるで童貞のように、すぐに達しそうになる。それを堪えるために神谷の身体を揺さぶりながら奥を突くと、笑うように震える吐息が神谷から吐き出された。
「意地っ張り」
 微かな振り向きと共にある言葉に眉を寄せると、神谷が笑いを深くしながらこちらに尻を押し付け、中を締め付けてきた。息を詰め衝撃が逃げるのを待つ。経験値が違うと思うことは多々あるが、こういう時は強く思う。
 くそ、と悪態をつくが、しかし気持ちよさに違いはない。
「――は、ぁ、」
 揺れる視界の中、見下ろす先にある神谷の背中。動く度に肩甲骨が動く。いつもは気にならないそれがふと気になったのは、気をそらして長く持たせたいという気持ちがあったからだろう。余分な肉がついていない背中に浮かび上がる三角。
 身をかがめ、そこに軽く歯を立てると肌が粟立った。幾度も歯を立てながら体重をかけていくと、神谷がシーツの上に崩れ落ちた。
「んン……っ」
「悪ぃ、大丈夫か」
 少し苦しげに喘いだ神谷に、はっとして上半身を起こす。体重差があるのだから、一時の衝撃でもそれなりの加重が神谷には伝わったはずだ。急ぎ顔を覗き込むと、シーツに埋まったままこちらを見上げた神谷は、目元を緩めて笑っていた。
「過保護。んな簡単に壊れねえよ」
「そういうことじゃねえだろ」
 自分をないがしろにするようなことを言う神谷に苛立ち反論するが、当の本人は笑みを深くするばかりだ。梶の反応を見て満足を得る、そんな自己完結の態度。
 時折起こるこの状態に、都度神谷に対して怒りを向けるが、神谷はそれすらも満足に変換するのだから解決しない。どうしたものか、というのが密かな課題だ。
「神谷」
 呼べば、梶の下にある身体から力が抜ける。それを好きに解釈した上で、神谷の腰をすくい上げて奥を突いた。ひくりと蠢く内壁を割るように奥へ。熱く湿ったそこは、梶の熱を離さない。
「――ふ……ぁ、あ」
 肌が触れ合うほどの密着は、それだけで気持ちがいい。神谷の濡れた声に誘われるように揺さぶり、快楽を得ていく。
 キスがしたい気持ちと、このまま一番奥を汚したい気持ちがせめぎあい、そのもどかしさが腰の動きに反映される。ガキじゃねえんだからと浮かんだ思考は、すぐにどこかに消えるほどに気持ちがいい。
「かじ……っ」
 涙の浮かぶ瞳と視線が合い、半ば無意識に腰を叩きつけた。ひくりと跳ねる腰から手を離し、神谷の上半身を引引っ張り起こして肩甲骨に噛み付いた。――少しの苛立ちのままに。
「――……!」
 膝立ちのまま、身体を震わせる神谷の中を汚す。それを受け止める恋人は、か細く声をあげながらも、梶に体重を預けてきた。それを受け止めながら、ベッドに沈む。やっと近付いた顔。視線を合わせてから唇を重ねると、久しぶりという感覚が不思議だ。
「たまにはこういうのもいいな」
「……よくねえよ」
 何故自分の怒りに嫉妬する、なんて状況にならねばいけないのかと睨みつけるが、自己完結が行き過ぎる男は、そんな梶の態度すらもどこ吹く風だ。
 自分を高く置くのに、自分を否定することを当然とする矛盾。判っていて改めるつもりがないのだから、梶の怒りの発散場所がない。神谷が蔑ろにするのは自分自身だけで、梶に矛先を向けないから、余計に取っ掛かりがないのだということを、神谷は気づいていない。
 どうしたものかな、ともう一度思いながら、目の前の唇にもう一度噛み付いた。