朝涼

08:筆に乗せるは秘めない思い

2025年5月19日
土「帰したくない」「我慢できない」

 山中の虫たちの求愛行動は賑やかだ。
 昼だろうと夜だろうと、それが自分たちの時間で周りに危険がないのならば求愛行動に勤しむのだ。
 種を残すための本能的行動、それは当然人間にだってある。
 他の動物よりも薄かろうと、本能的に種を残そうとする本能。そうして繁栄してきた人間。今では海に隔てられた、言葉の通じない他国に行き来して他種族同士が目合いを行う場合もあるというのだから、人間も侮れない。それでも、惹かれ合うというのはそんな常識を凌駕するものということなのだろう。
 でなければ――
「こんな風に呼び出したりしないってね」
「……急いで、駆けつけた、……人間に向かって、意味の、判らないことを」
 げほ、とひとつ咳き込む青年は、膝に両手を付きながら荒い呼吸を繰り返す。その額からぽたりと汗がひとつ、ふたつ。嗅覚に集中すると普段はしない、汗と彼本人の体臭。走ってきたことによっていつもより強くなったのだろう。と、そこまで考えてまだ呼吸が整っていない青年の腕を引っ張り、抵抗が生まれるより先に足を払って床に転がした。
「はっ!? ちょっと土井せんせっ」
「利吉くんは転がっててくれればいいよ。勝手に借りるから」
「借りるって最悪の言い方ですね!」
 汗で濡れ、体温の上がっている身体に跨がり遠慮なく座り込む。抜け方などいくらでも思いつくだろうに、利吉くんはそれをせずに私の下で唇を噛んで睨みつけてくるばかり。そのことに気を良くして上半身を倒して濡れた頬から首筋に舌を這わせた。塩辛さと埃の味。耳の下の窪みに鼻をつっこみ、深く呼吸をすると利吉くんが私の肩を掴んだ。
「ちょっと、先生、やめてください」
「久々なんだから堪能させろって」
「だからって匂い嗅がれるのは」
「いいから」
 言いながらも抵抗はなく、肩を掴んだ利吉くんの掌は私の背に回って降りてくる。薄汚れた忍服は時折彼の指を引っ掛けながらも動きを邪魔しない。
 実に半年ぶりの互いの体温だ。これだけ近ければ劣情を煽られるのも当然のことだし、そのために呼び出したのだから抵抗するはずもない。
 後手で袴の帯を緩めながら利吉くんの匂いのする肌を舌で嬲る。は、と息を吐いてから軽く首筋に歯を立てた。下帯も取っ払って乱暴に脱がせて横に放り投げると、小袖一枚になる。そうやって私に脱がされながらも、利吉くんも私の忍服を緩めているのだから、笑いも込み上がってくるというものだろう。
 緩まった彼の小袖の胸元から、くしゃくしゃに潰された見覚えのある手紙が一通滑り落ちるのを見て、気分良く口を開いた。
「やる気があるようで何より」
「そのつもりで呼び出しておいて……」
「届かなかったらどうしようかと思ってたよ」
 なんて、嘘だ。高確率で彼は私の伝言を手にするだろうと考えていたし、実際その通りになった。
 長期忍務についていた利吉くんが一度だけ途中経過の報告があったからと学園に来たことがあった。その時に今の時期に終わることも話していた。そしてちょうど一昨日から私は単独忍務が入り、帰りは明日。一計の思考は短く、さらさらと手紙を認めて山田先生に託してきたのだ。
 忍務が終われば必ず利吉くんは学園に来る。そして彼ほど優秀ならば、中間報告の時から終了時期を大きく時期を外すことはないだろうという信用があるし、そうなる外的要因の噂話もなかった。だから必ず、今日までに山田先生に託した手紙を見るだろうと、そう思った通りに利吉くんは動いてここきた。
 計画通りに落ち合えたため、気分が良い。
「私がこの手紙を父上の前で読むことまで計算に入れといて欲しかったですけどね」
 懐から落ちた半紙をつまみ上げ、それで私の胸を叩く利吉くんは少々機嫌が悪い。どうやら、私が書いた手紙の内容に怒っているらしい。
「考えた上で、利吉くんならどうにかするだろって思ったからなあ」
「父上の前で私が色任務の時みたく感情殺す程度のことは、心構えがなければ厳しいんですよ」
「ええー、修行が足りないんじゃないの?」
 利吉くんの指から手紙を抜き取り、空気を割りながら開くと思ったよりもいい音が出た。これ、何か武器として使えないだろうかとそんなことを考えながら、中身を検めた。覚えている通りの書き出しは、裏写りして読まれても問題がないような時候の挨拶。本題はその後に続く。
「君のまらを最後に受け入れたのが春の終わり」
「――――」
「そこから季節がひとつ過ぎて今は秋の始まり。肚が君の形を忘れそうだ」
 膝立ちになって緩まった忍服から片足を抜いて、見せつけるように下帯を取っ払う。緩く勃ち上がった陰茎の根本から先端に指を這わせ、ゆっくりと握ってから腰を落とす。同じように緩く勃つ利吉くんのものと触れ合わせて二本纏めて握った。彼のものは自分のものよりも細くて、かわりに長い。だから肚の奥まで届くし、奥を突かれないと満足出来ない身体になっている。
「……く、っそ」
 舌打ちして、腕で顔を隠す利吉くんは、更に身体を捻って逃げようとしたため、遠慮なく体重をかけて座り両の太腿で身体を挟んだ上で腰を前後に動かして纏めて握った陰茎に刺激を与えた。
「君のまらで肚の奥まで暴かれて抉られて捏ねられて、中身を引きずり出されるんじゃないかって激しさで内部を擦られることを思い出して慰めたこともあったけれど、飢餓が増えただけで――」
 先走りを指に絡め、纏めて握った指も動かす。響く水音は少しずつ大きくなっていき、鼓膜から犯される感覚。ゆっくりと息を吐きながら上半身を倒し、左腕を利吉くんの顔の横に付けて血色を良くしている耳朶に唇を寄せて囁いた。
「――我慢できない、と」
 右手の中の熱がひくりと存在感を増す。それを慰めるように先端を指先で弄ると、利吉くんが腰を浮かした。擦り付けるように上下する腰を体重をかけて抑え込むと、間近にある顔が歪む。その表情があまりにも可愛くて目尻や頬に口づけを落として慰めながら、くびれた部分をくるくると撫であげる。
「……あ゙、――ッ」
 ここは利吉くんの弱いところ。射精感が上がってきたのか、必死に声を噛み殺して、そのせいで息が荒くなっている。我慢する必要なんてないのになと思いながら射精をさせないようにただ指を添えるだけにする。このまま外に出されるのは勿体ない。
 だって、と続きを諳んじた。
「一度欲しいと思ったらもうだめで、早く君の身体が空く日を指折り数えていた」
 利吉くんの指が私の尻を掴む。その力の強さに目を細めると、怒りと欲に|塗《まみ》れた視線が合わさった。
「……油は」
「もう中に、……仕込んである」
 そっと囁やけば、ぐううと利吉くんが喉を鳴らす。まるで獣のようで、その姿に煽られ右手を私の尻を掴む彼の指に重ねてそっと誘導した。
 先程ここに着いたとき、足を洗って下半身の汚れも落として、一人で油を仕込んだ。その時はほぼただの作業で何も感じなかったというのに、今、私の指よりも少しだけ細くて骨ばっている利吉くんの指が自分の指と共に体内に沈んでいくという事実だけでふるりと身体が震えた。
 二人分の指で広げられた穴の淵から仕込んだ油が伝ってくる。それを逃さぬようにか、利吉くんが軽く引いて掬い上げ、また中に指を埋め込んで。そうしてゆっくりと前後しながら内壁を指の腹で擦り、泣き所に触れた。
「あ、ぁ……」
 自分の指で触れてもなんとも無いのに、利吉くんの遠慮なく触れて押しつぶすその指先には簡単に溶けた声が漏れる自分に笑いながら、息を一つ飲んだ。
「そして、次に目合いをするときには……ァ」
 ぐぱ、と広げられ、隙間に別の指が潜り込んでくる。そうして中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられると、脳の奥がじわりと痺れて気持ちがいい。利吉くんの首筋に顔を埋めるように崩れ落ちると、片手が私の腰を抱いて支えてくれた。汗が浮かぶ肌と匂いが近くなり、呼吸を繰り返すと先走りがとぷりとこぼれ落ち、利吉くんの陰茎や腹を汚したのを判った。
 早く欲しい、けれどまだ焦らしたい。
 反する感情を持て余しながら、自分の指で利吉くんの指を邪魔するように内部で絡める。狭い隘路を広げながら、同時に指が絡まり、互いに押し合って爪で引っかかれる。
「……んぅ、ぁ、ぁ」
「はは、もうぐちゃぐちゃだ」
 柔らかく、同時に熱くなっている内部を好きに広げながら、利吉くんが笑う。それでも、奥まで指を差し込まずに浅い場所しか触れないのは意趣返しなのだろうか。奥に欲しくて彼の指を飲み込むように尻を押し付けるが、その分だけ指が引かれていく。
 自分だって焦らしておきながら、利吉くんにそうされると恨みがましくなって目の前にある首に噛みつくと、びくりと肩が撓った。それでも指は中を抉ってはくれない。
 いや、けれど指よりもこのガチガチに硬くなったもので抉られたほうが気持ちがいいし、それを望んでいる。思考がぐちゃぐちゃで指が欲しいという気持ちと、早く陰茎を嵌めたいという気持ちが両方あって、自分でもどうしたいのか判らなくなってきた。
 だから、先に進めるように手紙の最後を読む。
「――帰したくないと、そう思ったものだから、……は、ぁ……来るのならばそのつもりでおいで」
 そう結んで、何食わぬ顔で山田先生に託した手紙。何気なく受け取った利吉くんがこれを読む姿を見られなかったことだけが残念ではあるが、目的はそこではないのだから仕方がない。
 得てして彼はここに来た。――来てくれた。
「こんな随分と直情的なお誘いを、父上の前で、読むことになったんですよ、私はッ」
 私の指ごと引き抜いて、油で濡れた指で私の顎を掴み噛みつくように唇が重ねられる。深く噛み合い、舌がもつれるように吸いあって。唾液を利吉くんの腔内でかき混ぜると、彼がそれを音を鳴らして飲み込んだ。舌を触れ合わせながら腰を上げ利吉くんの陰茎を解放する。屹立するその根本を指で撫でながら固定し、ゆっくりと腰を落としていく。ぐぷりと空気と油が混ざった音をさせながら、先端の張った部分を飲み込ませると、狭い内壁が喜びそれを勝手に締め付けた。
「あ、ぁ……んぁ、あー……」
 無理矢理広げられる感触が気持ちよくて、浅い場所で何度も抜き差しする。抜けるギリギリまで出して、また太いところだけ飲み込み、すぐに引く。ぐぽ、ぐぽ、と嵌まる音が一定の間隔で聞こえてくることにも官能を刺激されて、背中を丸めながらつながった場所を覗き見た。先走りと油で濡れた利吉くんの陰茎は、硬さは十分に天を向いていて。これが奥まで欲しい、まだもう少し焦らしたほうがきっと気持ちがいいと相変わらずの反する感情を持ちながら腰を上下させ続けた。
「先生。一人で楽しまないで」
「――お゙、ぐ……ッ」
 当然、そんな一人遊びを利吉くんが許してくれるはずもなく。腰を両手で掴まれてぐいと強引に腰を落とされ、まだ拡がっていない奥を強引に割られた。尻の下に利吉くんの陰毛の感触を感じながら、尻から上がってくる衝撃が頭の先から抜けるのを待つ。……つもりだったのに。
「あ! まっ……ィ、ぁ!」
 掴まれた腰を持ち上げられ、落とされて。深い場所で固定されてぐりぐりと回される。目の奥がチカチカと光って、開きっぱなしの口から唾液がこぼれ落ちて利吉くんの首筋を汚すのが判った。
「どうして。私のまらで奥を突いて欲しかったのでしょう」
「そ、だけど、ぉ゙、」
 久しぶりに感じる硬さに身体が驚きながらも、離さぬように内壁がしゃぶりついているのが判る。強く締め付けて、離さぬようにと。
 気持ちがいい、もっと欲しい。待ってなどという言葉は自分でも嘘だと判っている。
「も、ぉ……好きにして、いから」
 浅く呼吸を繰り返しながら、利吉くんの唇に何度も口付け先を強請ると、快楽から熱に浮かされ、瞳を潤ませながら利吉くんが私の腰を痛いほどに掴んで持ち上げ、また一気に落とした。
「あ゙、ぁ……ッ」
 本能に思考を明け渡しながら、与えられる快楽に身を沈めていく気持ちよさ。
 それをくれる年下の情人の身体に抱きつきながら、数カ月ぶりの熱と匂いを堪能するため、喉を開いた。