朝涼

02

2023年2月14日
俺嗤の次長達の習作

 酒を飲むとやりたくなる。
 それは本人からも聞いていたし、それより前に実際にそれで電話でデリヘル扱いされたこともある。
 今も耳奥に残る誘う声。
 甘ったるくて、生クリームを大量にそのまま食べた時のように、脳みその内側にずきりと痛みが走るような、声。

 独占欲とは、言い換えれば支配欲だ。
 ソレを手元に、自分だけのものとして何人たりとも触れさせない。自分だけのものとする欲。
 それが自分自身にあることなど、梶は神谷と関係を結ぶまで知らなかった。
 元妻である女に対して、その感情は持っていなかった。歴代の彼女達にもだ。
 神谷に対しておきた心の動きに当初は戸惑い、――今は振り回されている。

     ●

 終電などとっくに終わり、さりとて会社で夜明けを待つほど朝が近いわけでもない時間帯だったことと、三週間布団で寝ていないことに気が付いて会社を出たあと向かったのは、神谷の住むマンションだった。
 合鍵を交換して、隠すようなものもないから好きな時間にホテル代わりにしろよと言われたのは二ヶ月前。関係が変わってすぐのこと。
 欠伸をしながら中に入れば、リビングで酒を飲む神谷の姿。
 お疲れと笑うその姿に無言でキスをして、そのままベッドに倒れ込んだ。風呂など数日入らなくても死なない。
 そうして眠りの世界に旅立ったというのに。
「神谷……」
 身体に違和感を感じて瞼をこじ開け、下を見ると梶の下半身に神谷の姿。柔らかい髪に指を通して名を呼べば、生暖かい咥内が離れた。
「さすがに二回目だと気付くの早いな」
「てめぇ」
 始まりの時は挿入されるまで気が付かなかった。疲れ切っていたというのもあるが、神谷がゲイだと知ってはいたが自分が何されるとは微塵も思っていなかったからというのもある。
 ……今は、そうではないし、神谷の身体と匂いを覚える程度には身体を重ねている。
「酒飲むのは自由だけどな」
 神谷の両脇に腕を差し込み、引っ張りあげる。近くなった顔に視線を合わせた。
「その度に襲ってんじゃねえよ」
「梶が悪い」
「あ゛?」
 口元を指で拭った男は、梶の腹の上に座り込み、後ろ手で先程まで咥内で弄んでいた梶の熱を握る。
 指先で下から上につ、と撫でられ、血液がそこに集中する。
「一ヶ月」
「……あ?」
「ワーカーホリックと付き合うと、一ヶ月平気で放置されるとは知らなかった」
 先端に爪を立てられ、かと思えば掌全体で包み込まれる。
 梶から視線を逸らさぬまま、正確に男を煽る手管に目を細めるしかない。
「お前が忙しいことは判ってるし、こっちだってNが詰めに入ってるし」
 だけど、
「一ヶ月一度も接触してなかったってのに、お前がさっきキスしてきてその気になった」
「俺のせいかよ」
「放置プレイは好みじゃないんでね」
 神谷の腰を掴み、腹筋で起き上がる。近くなった距離を更に詰めて、唇を合わせた。
「何度男漁りにいってやろうかと思ったか」
「おいクソビッチ」
 眼鏡を外した神谷は、少しだけ幼く見える。吐息がかかるその距離で言われた台詞に反射的にイラッとして言葉を返すと、くく、と男が笑い梶の唇に舌を這わせた。
「放置するわりに独占欲は強い。アンバランスだな」
「…………」
 神谷は下半身を浮かせ、熱の集まる梶の陰茎を太腿で挟むように座り直し、前後に腰を揺すった。

「楽しいか」
 言葉や態度で梶を煽り、機嫌を良くする男を睨みつければ、神谷は歯を見せて笑うのだ。
「最高だね。居もしない俺の浮気相手に嫉妬している梶を見るのは」
 ついでに、と臀部で熱を刺激しながら、神谷の腕が梶の首筋に巻きついた。
「これ突っ込んでくれたらもっとアガる」
 楽しげな男に舌打ちをして、そのまま男をベッドへ押し倒した。
 きょと、と見上げてくる幼さに惹かれるように唇を重ね、咥内をまさぐる。すぐに応えてくる舌は、塞いでいない時と同じく良く動く。
 噛んで追いかけて追いかけさせて、絡んで。

「最悪だな」
 本心からそう言うが、男はただ、艶やかに笑うだけだった。