過去に戻れるなら、どうするか。
ちょうどCMに入ったタイミングで神谷がそう問いかけると、梶が呷っていたビール缶を机の上においてから神谷を見た。
未来からやってきた青年と、主人公の少女の、ラストシーンが有名なアニメ映画は、前半にCMが詰め込まれていて、数分ごとに物語が途切れているため、暇つぶしの会話だ。
「どうするってのは」
「例えば、奥さんと別れないようにするとか」
言って、自虐だと気が付き奥歯を噛む。もっと軽いことを言えば良かった。宝くじ買うとか、そういうことを。思い、急ぎ謝罪の言葉を舌に乗せるより先に、梶が口を開いた。
「あれはもうどうにもしねえよ」
「……悪かった」
「謝る必要ねえぞ。何やったところで、離婚回避は無理だろ」
「――……」
チーズを齧った梶はそれだけ言って、続けない。
終わったことと割り切っている態度に、振っておいて神谷のほうが動揺している。けれどそれは、結局のところ神谷が信じ切ってないということに他ならない。普段考えないけれど、ふとしたときに浮上する感情に、まだ慣れない。
「二十代にこうなったら、俺等長く続かなかっただろうな」
「……」
「俺は言葉足らずで、お前は人を信用してなかったし」
「そんなことないだろ」
信用してないなんて、そんなことないはずだと隣を睨むが、梶はどこ吹く風だ。
「社交的なようで見えて内向的、同期と仲良くなっているように見えて、何も話さない奴だったろうが」
「……」
今度はそんなことない、と言い切れずに黙ると梶は神谷の頭を引き寄せ、軽く口付けてきた。アルコールで体温が上がっているため、くっつくと熱を感じやすい。触れてすぐに離れる熱が消えるより先に、梶が口開いた。
「喧嘩別れしてそのままってなるよりも、今の方がいいだろ。……だからそんな顔すんな」
どんな顔だよと思う神谷の目元を、梶の指が撫でていく。そこは別に濡れていない。けれど、何かを拭うように動く指を捕まえその指先に口付けた。
「悪かった」
言い訳は重ねずにただ謝る。何を言っても、口に出た言葉は消えない。それに、その感情があることは梶の前で見せていてもう隠せないのだから、何を言っても仕方がない。自分の中で消化させていくしかないのだから。
そんな神谷をじっとみた梶は、こちらのうなじをゆるく撫でながら、息をついた。
「時間薬だな……」
何のことだよと首を傾げるこちらに対して、しかし梶は何も言わずにもう一度口付けてきた。
時を重ねる