朝涼

006:蜜

「この間リクがさ、給食のことすごいテンションで語ってくれた」
 バラエティ番組は、給食人気メニューランキング。昔と今で比較されたものが順番に紹介され、街頭インタビューやスタジオトークが回されていく。
 ランキングが五位まで発表されたタイミングで、長谷川が今思い出したと笑いながらビール缶を傾けて言った。
 数年前に出会った時から、片桐に敵意を向け長谷川には愛嬌を振りまいている子供ガキ。本気で長谷川を取られる心配などしていないが、目の前で子供特権でベタベタされるのを見るのは気持ちいいものではない。まあ二人きりになった後、同じようにベタベタとさせて貰っているが。
 そんな子供が小学校に上がったと、言っていたなと思い出す。
「家で出る飯とは献立も味付けも違うから、新鮮なんだって」
「あれ、大体足りねえんですよね」
 給食は小中のみだったが、ずっと足りないと思っていた記憶が強い。高校になって弁当になったが、そっちも足りなくて結局買い食いしまくっていたのはいい思い出だ。幼馴染とバーガー大食い大会とか。
「片桐は好きなメニューなんだったんだ?」
「考えたことないですね。甘いものはヒロに押し付けて代わりに肉貰ってたくらいで」
「片桐らしい」
 腹が膨らめばそれでいい、という考えで好き嫌いを考えたことがなかったと素直に返すと、長谷川が笑った。
「幼馴染と喧嘩にならなかったのか?」
「ぎゃーぎゃー騒いでましたけど、甘いもんやったんだから言われる筋合いねえし」
 クラスが違っても交換しに行って、等価交換なのだからと騒ぐ矢島を放置して存分に肉を食った。その場ではメチャクチャに切れるくせに、次に会った時には話題にすらあげず、こっちの思惑通りに動くあたり扱いやすくて単純で付き合いは楽でいいのだが。
「長谷川さんは好きなメニューあったんですか」
 第四位! と高らかにナレーションが言っているのを耳にしながら問いかけると、長谷川はテレビ画面を見ながらビールを一度呷った。
「何個か覚えてるけど……特別感があったって意味では冷凍みかんだなぁ」
 ランキングでも七位あたりに入っていたなと画面をちらりと見るが、四位の給食の紹介を行っていてランキング表は見えなかった。
「夏に出るから冷たくて印象強いってのもあるんだろうな」
「長谷川さんは給食のデザートを残しておいて、放課後に食べるとかしなさそうですね」
「したことないな。お前は食べなかっただろ」
「ミカンはすっぱいんで菓子系よりは食べられますけど、ヒロか姉に押し付けてましたね。ヒロが一個は給食の時間に食べてもう一個は放課後に食べてたんですよ」
「よく先生に怒られずにすんだな」
 他愛もない会話をしながらの酒盛り。世代の違いに時折長谷川が落ち込んだり、それを慰めたり、たった数年での違いに驚いたり。
 区が違えば給食の内容も違ったりするのだから、県が違えば当然もっと違いはあるのだろう。実際、地方出身のタレント達もそんな違いで盛り上がっている。
「話してたら冷凍みかん食べたくなってきた」
「通販なら手に入るでしょうし、買いますか」
「リクにあげたら喜ぶな」
「……」
「何だよその顔」
 思わず黙った片桐を、目ざとく見つけた長谷川が首を傾げる。
「いえ、敵に塩を送るということになるのか、大人として施してやるのか、どちらか悩んだだけです」
「……?」
 片桐の言に意味が判らないという顔をする長谷川に、誤魔化すようににこりと笑ってから、新しいビールに手をかけた。

冷凍