「熱燗?」
「たまにはいいだろ」
梶が両手に持ってきた燗徳利。美濃焼きのそれは、少し前に誕生日プレゼントとして、神谷が梶に送ったものだ。
梶は、酒蔵の息子だからかビールやワインも嗜むが、一番良い反応を見せるのはやはり日本酒で。飲みに行くとここぞという時と最後は日本酒を必ず頼んでいる。それに気がついたからこそ、プレゼントとして渡したもの。家で、熱燗が飲めるように、と。
机に置くのは徳利と、見覚えのないガラスの猪口。呑み口の少し下、指で持つあたりが青と緑のグラデーションのものが二つ。お揃い、という単語が浮かびすぐに消した。
「付き合ってくれ」
ソファに座る神谷の左斜め前、床に直接座った梶は一つに酒を注ぎ横にずらし、神谷が手に取れるようにした。
もう一つの猪口に注ぐ梶を視界に、ガラスのそれを手に取ると、じわりと熱が指に伝わってきた。
昼間は春とも言える気候で暖かくなってきたが、今日は一転とても冷えた。夜になればその寒さは一層で、熱を奪おうとする猪口を持つ指先が痛いくらいだ。
「これ買ったのか」
「これから二人で何度も使うんだから、いいだろ」
飾らぬ言葉に、まだ何も飲んでいないのに顔が赤くなるのを実感。しかしそれを悪いこととは取らず、滑り落ちるように梶の隣の床に腰を落ち着けた。
「梶んところの?」
「ああ」
冬の間に作られる新酒。新潟から送られてきたというそれの、まずは香りを楽しむように猪口を近づけると、米が発酵した甘さがふわりと漂った。それを鼻孔に置き、一口。
「……飲みやすい」
ほう、と息を吐く。
米だけでなく、ほのかに花の匂いがする。それが何故か理屈は判らぬとも優しい喉越しと鼻に抜ける香りがとても気に入った。
そんな神谷の一連の動作を見ていた梶が、珍しく眉間のシワを消してゆったりと笑う。あまり見ることのない表情に、一度は戻った顔の熱が戻ってくるのを感じた。
……いや、これはアルコールのせい。
自分に言い訳をしながら、もう一口。猪口は、それだけで中身を空にした。
神谷と違い、一口で空にした梶にぶつかるように体重をかけると、同じように力が返された。
「礼……何が良いと思う?」
「何でも良いだろ」
「雑すぎ」
叱咤のためにもう一度身体をぶつけると、酒が注がれた。
身体の中と、隣の熱によって温められていく幸いに浸りながら、もう一度優しい味わいを口に含んだ。
花冷えの夜