ふと浮上した意識は、同時に包まれた温かさを自覚した。
顔を上げると目の前には片桐の健やかな寝顔。髭がすでに濃い。毎朝大変だよなぁと思う気持ちと、自分ももう少し濃かったら、と思う気持ちを持ちつつ、起き上った。
長谷川の身体を囲うように、裸の腕がある。寒くないのかと思うが、本人はむしろ暑がっているのだから、新陳代謝の違いを感じる。
時計を見ると、あと一分ほどでアラームが鳴る時刻だった。なら、それを待ってから片桐を起こすかと、体勢を変えて沈む布団の上に座った。
静かな部屋の中、だからこそ外の音が聞こえた。
「雨か……」
水を弾くタイヤの音や、雨粒を弾く音が連続している。そして、雨を自覚したら寒さもやってきた。
「さむ……っ」
呟き、布団の中に下半身を入れてた。
特に気配を消す動きをしなくとも、片桐が起きることはないということはすでに知っている。眠りは深く、しかし浮上も早い。それが判ってから、長谷川は必要以上に気配を消して動くことをやめた。
週半ば、後二日で週末だが、こなすべきタスクと、新規案件がすでに積まれており、
……休日出勤だなー。
仕事が遅いつもりは全く無いのだが、立場的に仕事が多い。休日出勤を減らさないといけないなと思いつつも、ついそれ有りきでスケジュールを組んでしまっているのも事実。今週もそんなだなぁと思考する長谷川の耳に、アラームが響いた。
音は聞こえているだろうに、微動だにしない片桐に苦笑し身体を揺らす。
「片桐、起きろ。朝だぞ」
「んー……」
「雨だから早めに出ないと」
「うげ……」
うっかりで漏れたらしい本音に笑う。ごろりと身体を反転させ、長谷川を見上げる片桐の目は眠気と面倒臭さが混ざっていた。
「通勤中だけ晴れてくんねえかな」
「ははっ、それは誰もが思うことだな。ほら、寒いだろ。早く服着ろって」
ちゃんとパジャマを着ている長谷川でさえ肌寒いのだから、片桐はもっとだろうと声をかけるが、触れた腕は寝起き特有でとても温かい。
「体温高いよなぁ」
「温めてあげましょうか」
「うわっ」
言うなり、片桐が長谷川を引っ張り転ばせてくる。背中には温められたシーツの感触、上には片桐。挟まれた熱は、冷えた身体にじわりと沁みる。
上から長谷川を見下ろし、にこやかに笑う無精髭の美形。
落ちてくる顔を掌で受け止め、力を込めて押しながら起き上がった。
「ふざけてないで起きるぞ」
温かな布団は魅力的だが、遅刻する訳にはいかない。片桐は、むすっとしながらもう一度布団に転がった。
「直幸さんが冷たいから起きる気なくしました」
「何言ってんだ……」
ベッドから長谷川が降りても、片桐は動かず、長谷川を見上げるばかりだ。
その無言の瞳が何をせがんでいるのか判ってしまったが、片桐の希望百パーセントを叶えるわけにもいかない。それ以上を持っていかれかねない。
だから、と、腕をのばし片桐の髪に指を通してわしわしとかき混ぜた。
「今日はノー残デーだし、早く上がって飲みに行こうぜ」
「その後ホテルですね」
言外に望まれていることが判り、それを拒否する気持ちも……起きず、長谷川は片桐から視線を逸らしながら口を開いた。
「……帰ってきたらいいだろ、別に」
その本意は、きちんと伝わり。片桐は笑みを深くして起き上がり、長谷川の指を捕まえてその指先に口付けた。
「残業するわけにいかなくなりました」
「……現金だな」
一気に機嫌が良くなる片桐に苦笑し、しかし動く気になってくれたのは良かったと、やっと本格的に朝の準備に取り掛かった。
雨降る朝