テレビの音だけが響く、部屋の中。バラエティが流れているが、部屋の中にいる二人はそれどころではなかった。
二人共無言。けれど、口は動いている。
ん、ぐ、と唾液を飲み込む間だけ休憩とした加藤は、隣を見る。少し前かがみになりながら、同じように口を動かしている松田は、加藤の視線に気付かない。こっち見ないかなと思いながら、口の中――舌を動かす。
細く、硬い茎はなかなか思い通りに動いてくれない。少しのストレスを感じながら舌だけでなく、上顎や歯を使って自分の動かしたい場所へと誘導していく。
目の前にあれば、やってみたくなる合コンネタ。まあ実際、茎をすぐに結べるような器用さがあれば、キスだって上手いだろうからあながち間違いでもない、はずだ。
松田は、少しだけ身体が左に倒れていて、ちょっと……いや、かなり可愛い。
……正直、こんなのより松田にキスしたいな。
味気ない青臭さよりも、そっちのほうが比べるまでもなく有意義で最高だ。
松田の腔内の味を堪能して、舌を絡めて吸って、そうすると抵抗するように舌で押し返してくる。同じように押し返すとぎゅうと目を瞑って、それでも加藤の舌を受け入れて。呼吸の合間に小さく漏れる声は甘く耳に響く。
上顎をゆっくりとなぞっていくと、それだけで腰が抜けるのか、加藤に縋りついてくるのが常で。腰を抱いて逃さぬようにしながら、舌を吸うと、ひくりと蠢く身体の振動がダイレクトに伝わってくる。
ずっと、どれだけ触れ合っていても足りない。少しでも離れるとすぐに欲しくなる。くっついてこのまま溶けて混ざって離れなければいいのに。そうしたら、松田はずっと加藤のものだし、加藤はずっと松田のものだ。
……ああけど、そうしたら会話をすることも一緒に寝ることも、キスもセックスも出来なくなるな。
それはかなり惜しい。触れ合っていたいけれど、離れている時があるから再び触れた時に幸いは大きくなるのだから。
「……かとう」
どっちのものか判らない唾液で顔の周りをベタベタになるころに、松田はいつも加藤を呼ぶ。もう、これ以上はという懇願で。今みたいに。
「加藤、おい聞いてんのか!」
「――――」
妄想と想像と夢想の世界にいたため、現実との境界が一瞬理解出来ず、松田の顔を見て止まってしまった。そんな加藤をどう思ったのか、松田は掌に茎を乗せてハン、と笑った。
「俺の勝ち」
「……」
そういえば、そうだった。どっちが先にさくらんぼの茎を結べるかという勝負をしていた最中に、思考を飛ばしてしまった。
口の中にある茎は、何も結ばれていない。
「つまり松田のほうがキスが上手いってことか」
「な……っ」
もう何の味もしない茎を吐き出して、代わりに松田の身体を引き寄せつつこちらからも寄った。
「ということで、キスしよう」
「何がということで、だ。近寄るな!」
「だって、これってキスする言い訳だろ」
「ちっげえわ!」
間近で喚く松田の顎を掴んで、今度は現実で口づけた。
桜桃遊び