「何が食べたいですか?」
「……春巻き」
また面倒なのをリクエストしてきたな、とは喉の奥に押し込み、かわりの言葉を口にした。
「揚げたて美味いですもんね」
一緒に自動扉を潜ると、軽快な音楽と冷えた空気に迎えられた。黒崎の住まうマンション近くのスーパーは小さく、通路も狭い。それでも多くの人が毎日利用しており、おばちゃんや子連れで賑わっている。その流れに乗るように、かごを持って二人で中に入った。
最初は野菜コーナー。
「ニラと、もやしと……あ、たけのこ」
「白石くん、かぼちゃがある」
「……食べたいんですか?」
半分に割られたかぼちゃをじっと見る黒崎に問いかけると、こちらに顔を向けてきた。無表情の中に、いつもより楽しげな雰囲気を見つけてしまったため、かごを差し出した。
「煮物にした後、チーズと一緒に揚げるのもいいですね」
「君は天才か」
かぼちゃをかごに入れた後、黒崎は白石の手からかごを引き取っていった。
「ありがとうございます」
素直にそれを受け、野菜コーナーから離れるように歩く。干し椎茸はまだあるから、今回は買わない。鮮魚コーナーでエビをかごに。精肉コーナーで豚肉と、春巻の皮。それとチーズ。ぽいぽいとかごに入れていき、更に混み始めた店内から脱出するため、すぐにレジに向かった。
「この時間は混みますね」
「そうなのか?」
「俺らみたいに仕事終わった人らが買い物に来ますから。主婦の人は午前中から午後始めくらい」
レジを通し、袋詰めしながら二人で外に出ると、沈み始めた太陽が殆ど真正面にあった。
「まぶし……」
「日が落ちるのが早くなったな」
真っ赤な夕日は、夏が過ぎ去り始めている証拠だ。まだ蒸し暑さはあるものの、吹く風に冷たさが混ざり始めている。
「ついこの間春やったのに、もう秋って一年が早いですね」
春に関係が変わって、同棲を初めて数ヶ月。慣れてきたこともあれば、未だ慣れないこともまだ沢山ある。お互いに研究があるし、学校生活もバイトもあるから、毎日顔は見ても会話が無い日だってある。それでも、白石は幸せだと言える。
お互いに言葉が足りなかったり、喧嘩になったりすることもある。それでも、黒崎は白石を理解してくれようと誠実であるし、そんな黒崎に対して白石は素直に感謝を表している。
来年、再来年。社会に出たら二人の関係はまた変わるのだろ。先のことは判らない、けれど。
「白石君」
名を呼ばれ、橙に染まる黒崎が白石へと腕を伸ばして指を絡めるように握ってきた。
「……」
恥ずかしさと、幸いがごちゃ混ぜになるこの瞬間。黒崎からの圧を受け入れるように握ると、こちらを見ていた表情が少しだけ緩む。
けれど、今この時間がきっと味方になってくれるとそう信じられるようになった。
茜さす