朝涼

022:妖

 酔ってるな、というのは口付けられた直後に判った。赤ワイン独特の甘みと匂い、それとは別に米が発酵した匂い。さらに、琥珀を感じさせる甘さがきたらどういうことなのか、答えはひとつしかない。
「神谷、ちゃんぽんしたな」
「ん? ふふ」
 アルコールに対して特別弱いわけではないが、強くもない神谷だが酒自体は好んで飲む。基本は自制するが、時折こうして箍を外すことがある。次の日に響いても問題ない時や、家の中だけで外では決してやらないため、ストレス発散の一種だろうと思って普段は付き合ったり放置したりしている。神谷も一人で飲んだり誘ってきたりと、その時々だ。
 金曜日の夜。神谷も残業はあっただろうに、すでに出来上がっている。珍しく玄関で迎えられたかと思えば、ぶつかるように首に絡みつかれてのキスは、場所とアルコールの味さえしなければ大歓迎のもの。
 少し好きにさせたら満足するだろうかと、触れ合う舌を絡めあった。
 上半身はそのまま、神谷は片腕で梶の下半身に指を這わせ始めたため、無理矢理身体を引き剥がした。
「おい、上がらせろって」
「やだ」
「ワガママ言うな」
 言葉で言ったところで、これは確実に聞き入れない。
 仕方がないと、神谷の身体を持ち上げてから靴を脱いだ。
「落ちるって!」
「落とさねえって」
 ぎゅうと抱きついてくる腕に悪い気はせず、寝室へと向かう。途中で見たリビングにはかなりの量の空き缶と空き瓶が転がっていて、何や嫌なことでもあったのかもしれないと、ふと思った。聞いたところで、話さないのだろうけれど。
 ベッドに優しく降ろして離れようとすると、それを許さないとばかりに、首に絡んでいた腕に力が入った。
「……神谷」
「しよ」
 アルコールで上気した頬と、体温。目を細め笑う姿。するりと背中を撫でられ何も感じないほど不感症ではなく。
 あからさまに誘われて苛立ちはあるものの、拒絶するほど頑固でもなく。
 ああくそ、と思いながら梶は神谷の身体に被さった。

妖艶なる笑み