毎月恒例となっている、片桐の部屋の片付け。
こうして手を出すのはいけないとは思うのだが、出さなければどこまでも汚くするのが片桐だ。
「床が見えるの久々だなー」
と関心された時には、本気で頭を抱えた。会社の机はさほど汚くないし、スーツだってシャツだって、クリーニングにちゃんと出している。……帰ってきたものはそのままクローゼットにかかっているが、床に放置していないだけマシだろう。
片桐を褒めるハードルがあまりにも低いことには目を瞑っておく。考えたら負けだと思っている時点で負けている気がするけれど。
付き合い始めてから、週の何日かは長谷川の部屋にいて、この部屋には帰ってきていないのに、以前と変わらず汚れているのは何故なのだろうか。普通、少しマシになるはずなのに。
「何ででしょうねえ」
「…………」
「その顔初めてですね」
呆れたらいいのか、怒ったらいいのか、失望したらいいのか判らず曖昧な顔をしたら、片桐がそんなことを言い出し、呆れのままゴミ袋を押し付けた。
そうして、いつものように始まった掃除。
コンビニ飯の残骸、通販のダンボール、購入したものの外箱、クッション材、ペットボトル、雑誌、レンタルDVDはまた延滞しているし、レンタル終了日としてレシートに記載されている日付は、長谷川のマンションにいたことを思い出したためあとで叱る。
心に留めながら床に放置されていた服をどかした瞬間、足の上を高速で黒い何かが這っていった。
「……片桐」
「はい?」
今までいなかったことが奇跡なのだろう、確実に。
しかし、今見えたものは一匹見かけたら百匹いると思えというあれだ。
「今すぐ薬局行ってこい」
「は、はい?」
長谷川の低い声と半目に、さすがに片桐も何かがあったのかと口の端を引きつらせている。
「ジェットとくん煙剤、設置型」
「あー……」
「いや、この部屋だと使えないから一度リセットしないと無理か。業者に頼んで全部きれいにしてもらってからか」
「長谷川さん落ち着いて」
物が多く、しかも必要なものとゴミが一緒くたになっている現状では、くん煙剤を使えない。匂いが付いてしまうため、避難させないと、と頭の中でスケジュールを組んでいると、視界の隅に動く物体。
「片桐、この雑誌捨てるやつだな?」
「え? はい。……どうぞ」
長谷川が何をしたいのか悟ったのか、片桐がわざわざその雑誌を手渡してくれる。
有り難く受け取りくるくると丸めた。
黒いものが消えていった先にそっと近づき、コンビニ袋をどかすと同時に視界に入ったそれめがけて雑誌を振り下ろした。
「お見事」
ズパン、と音をさせて確実に潰した感触。片桐が感心した様子で、長谷川の背後からこちらの手元を覗き込んでくる。
「普段そんな反射神経よくないのに、こういう時は早いですよね」
「喧嘩売ってんのかてめえ」
「褒めてるんですよ」
にこやかに笑いながら、アルコールを手渡してくるのだから、抜かりない。
「さっさと買い物行って来い」
「はーい」
半目を向けながらアルコールを受け取りながらの促しに、片桐は逆らうことなくいい返事をして立ち上がった。掃除の時の長谷川には逆らわない、がいつの間にか片桐の中でルールになっているらしく、この時ばかりはやる気はさほどなくとも、長谷川の邪魔をすることはしないし、素直だ。
いつもこうならいいのに、と思うこともあるが、素直すぎる片桐というのも逆に違和感を感じるようになっているのだから、長谷川も大概片桐に慣れたものだなと息を吐いた。
とはいえ、今は片桐との関係に悩む時間ではないと、アルコールを床に向けたのだった。
殲滅戦