酒の勢い、と言い訳が出来ないくらいにしか飲んでいないことを、ここに至って後悔してももう遅い。
飲みながらなんとなく流していた映画は恋愛物で、これを野郎二人で見てどうすんだと思いながらもチャンネルを替えるほどでもなく、加藤も真剣に見ていないようだったので放置していた。
ローストしたナッツを齧り、鼻に抜ける香ばしい匂いがあるうちに白ワインを一口。混ざって少し甘さを感じるのが結構好きだったりする。
二人の男が、一人の少女を取り合う物語。少女漫画みたいだなと思っていたらCMで原作が紹介され、少女漫画だったことを知る。潜在的にハーレムを好むのは男女変わらずということなのだろうか。
「加藤って、どんな女がタイプなんだよ」
ふと気になって、スマホを見ている加藤に問いかける。親指で画面を弾いた後、加藤は松田をまっすぐ見つけて口を開いた。
「松田」
「俺は女じゃねえよ!」
言われるのでないかと思ったことをまんまと言われ、被せ気味に怒りを向けるが加藤はグラスを傾け中身を飲み干してから笑った。
「松田が女だったら、もっと手っ取り早かったのにな。……まあ男でも結果は変わらないけど」
相変わらず、松田の常識外なことを平然と言う男を、どうしたらいいのか。何度も嫁でもないし、そもそも恋人ですらないし、当然加藤製薬に引き抜かれる予定などないし、加藤の部下になるなど死んでもごめんだ。こいつが社長の座を松田に寄越すというのなら、考えなくもないが。
「松田ももの好きだな」
「はあ? 何がだよ」
「俺の答えを聞きたくて、こうやってたまにわざと聞いてくるんだろ?」
「……はあ?」
にじり寄ってくる男から離れようと身体を離すが、その分距離を詰められ肩がぶつかった。
「大丈夫、俺は松田以外興味無いって」
「……」
毎回毎度、言葉を変えつつも同じことを言う加藤。それに呆れと、恐怖と、……いや、それ以外何も無い、ないったらない。
ふわりと浮かんできた感情を押し込めるようにかぶりを振り、そんな自分を誤魔化すように、視界の隅で動く画像と耳に届く台詞をなぞった。
「俺がお前を忘れても?」
「俺が松田を覚えている」
答えは、映画とは全く違う、加藤の言葉。
「幸せになれないって判ってるのに」
「松田がいるだけで、俺は幸いだよ」
ストレートに、松田だけを見て言葉を紡ぐ。
「俺は幸いじゃない」
「必ず、幸せにする」
迷いなく言い切る姿。女なら喜ぶところなのだろう。
「なんで……俺なんだよ。他にもいるだろ」
「俺を人間にしてくれるのが、松田だから」
それが、
「俺には理解出来ねえ」
「俺には松田だけだよ」
判らないと映画とはかけ離れたやり取りを繰り返す。
「俺はずっと、お前を嫌い続ける」
「いつか俺を好きになって欲しい」
なんで、こいつは。
「諦めないんだよ……」
「松田以外いらないから、諦めるって選択肢はない」
ああくそ、とここまで応対して後悔した。
聞くんじゃなかった。こんな重たい感情を一気にぶつけられても、処理しきれない。
視線を逸らそうとする松田の頬に触れる指がそれを許さずに、隣に座る男を無理矢理認識させられ。
「何度でも言うし、どれだけ時間がかかってもいい。信じてよりも先に、知っておいて」
自分の発する言葉を、それが全てなのだと信じている強さで、松田に刻みつけるように加藤はそう言った。
魔が差した