街を歩いていると、どうしても職業病が出てしまう。
すれ違う人、車の運転席に助手席、見えるのなら後部座席。迷子がいないか、困っている人がいないか。実際声をかけることは稀だけれども、視線を飛ばすことは職業病だ。
だからどうにも街中は落ち着かない。
水族館や海が好きなのは、元々好きというのもあるが就職してからは人を見なくて済むから、という理由も追加された。
海に行くだけならば車を走らせるだけで済むから、一人になりたい時には時折ドライブがてら海風にあたりに行ってリフレッシュ。数時間だけでも、波の音を聞きながら歩くだけでストレス発散になるということを知った。
斉藤に、どこに行きたいと聞かれ水族館を上げたのも、ずっと行っていなかったからだった。一人ではなかなか行きづらい。三十目前の野郎共たちで水族館というのもおかしな話で、友人と一緒に行くという選択肢もない。
久々の薄暗い蒼の世界はとても楽しくて、結構いい思い出として記憶に残ったことは否定しないし、それ以降休みがあった日にはたまに行くようになった。その中で職業病のことを話せば鼻で笑われながらも、海に連れて行ってくれた。いらっとしたが、そういうものだと自分を納得させている。
一昔前はひどかったという東京の海も、時間を掛けて戻ってきているという。眺めるだけならば判らないけれど、海の中はきっと色々とあるのだろう。海釣りを好む斉藤のほうが、そういう機微を知っていて、海沿いにある公園を歩きながらそんな会話を交わすのも、好きな時間と言えた。
お互いに、呼び出されたらプライベートな時間は修了し、すぐに駆けつけなければならない職業だ。それに不満はないけれど、呼び出されたいわけでもないし、呼び出されて残念に思う気持ちだってある。
「まだ太陽出てるとあっちーな」
来る途中で買ったプラカップに入っているドリンクのストローを噛みながら上を見ると、太陽が白い。九月も終わりだが、まだ半袖で過ごせるくらいには暑く、けれど朝晩は冷えるようになってきた。
真夏は真夏で好きだが、仕事がし易いのは涼しくなってからなのは事実。もう少し涼しくならねえかなと思いながら、ライム味のドリンクを喉に通した。キウイの身が入っていて、食感が面白い。さっぱりしているのに甘く、これは当たりだ。
「あんたさ、小さい頃夏休みどうやって過ごしてた?」
「お前は宿題やらずに遊び回ってそうだな」
「うるせえなその通りだよ」
「マグロの解体ショー見てみてえ」
「今度行くか」
「潮干狩りやったことねえんだよなー」
「俺もないな。買ったほうが早い」
「そうじゃねえだろ……」
「電動リールは夢なさすぎ」
「人類の叡智だろ」
「そういやこの間、てめえがあほなこと言ったせいで大変だったんだからな!」
「俺は、矢島に聞けと言っただけだ」
「そ、れ、の、せ、い、だっつの!」
周りに殆ど人がおらず、潮騒の音に消されるように二人だけで交わされる会話は一貫性などない。思いついた時に思いついたものを口にして、そのまま会話が続いたり続かなかったり。けれど、それで良かった。自分にも斉藤にも、そして第三者にも気を使う必要がないというだけで、気が楽なのだから。
金をかけてどこかの施設に行くよりも、矢島はこうしている方が好きで、満足度が高い。
斉藤に付き合わせるのに罪悪感を最初は感じたが、どうせ日が沈んだら斉藤の好きにされるのだから、昼間はこちらの好きにさせてもらえばいいだろうと、開き直れるくらいには回数をこなしている。
青空が橙色に変わり、藍色を深くしていく。
そんな時間まで海のそばにいて、車に戻る直前に塩味のキスをするのも、嫌いでないことは、ずっと内緒のままでいたいと思っている。
散歩デート