「松田、顔が」
ベッドの上で加藤が放った一言によって、ものすごく嫌そうな顔をする松田に思わずツッコむ。だが本人は顔を戻すことなく思い切り舌打ちを重ねてきた。
「いつもお前は突然なんだよ」
「だって、まともに口説けって言っただろ」
「まともな口説き文句ないのかって言ったんだよ! 歪曲すんな!」
さて、日本語とは得てして曖昧なものだ。つまり、解釈し放題。
「つまり、口説いていいってことだろ?」
「言ってねえよ」
松田に近寄るとビシ、と額をデコピンされた。結構な重さで、痛さに顔を背ける間に松田には逃げられてしまう。
その距離を恨めしく思いながらじっと松田を見ると、顎を引いてこちらを睨みつけてくる。視線が逸らされないことに気を良くして再び近付いた。
「寄ってくんなって」
嫌そうな顔をしながらも、しかし少し目元が赤くなっているし、本気の拒絶は相変わらず感じられない。加藤のことを嫌いなのは事実なのだろうが、そこに嫌悪がないというのも事実。それだけで、加藤としては手を緩める理由がなくなる。
嫌悪は感情だが、嫌いは理屈。前者はどうにもならないが、後者はどうとでも出来るのだ。
近寄って、けれど触れずに。警戒する松田と視線を合わせたまま口を開いた。
「愛しています」
直球勝負の一言は、そう言えば今まで言ったことがなかったなと、口にしてから気がついた。
好きだとは言えても、愛しているは言い慣れない恥ずかしさがある。
「な、……っ、ば、」
言われた松田もそれは同じだったようで、判りやすく顔を真っ赤にして狼狽えた。最近は加藤のプロポーズもあまり反応がなく、はいはいと流されるか、先程のように嫌そうな顔をするかのどちらかだったため、とても新鮮に感じたし、とても可愛い。
「その顔新鮮」
「何だよそれ」
「かわいい」
「俺は男だ! 可愛くねえよ!」
ガードしてくる腕を掴んで、のしかかるように体重をかけていく。そのまま押し倒すと、松田は抵抗せずにベッドに沈んだ。上から見下ろす顔は、とても赤い。
「何なんだよお前……、そんなの、俺に言う事じゃないだろ」
「松田以外に言う人いないだろ」
頬に口付けながら否定すると、松田が顔を背ける。それを追いかけて額を合わせた。
「松田にしか言わない」
「……」
「愛してる」
「……も、言わなくていい」
拳で叩かれた肩は鈍い痛みがあるものの、逃げようとしない身体を信じて口づけると松田の身体からゆっくりと力が抜けた。
「愛しています」