朝涼

045:肌

「あ、の……黒崎さん」
 背中側にある体温と、触れる硬さに勇気を貰い、声をかける。けれど後ろを振り向くことは出来ずに俯いたまま腕だけを後ろにまわして、尾骨近くにある熱を握った。
「……」
 少し驚いた気配のあと、うなじに張り付く髪をそっと指で掻き分け唇が付けられる。そうして密着しながらも黒崎の左手が前に回ってきた。
「――……っ」
 緩く握られるそこを見ていられなくて、目を瞑る。
 黒崎に触れることは慣れても、黒崎に触れられることは未だ慣れなくて反射的に遠慮したくなるのだが、それを意思の力で抑え込んだ。俺も触れたい、と何度も伝えられていて拒絶など出来ない。
 後ろ手で先端を親指で撫でると、すぐに固くなっていく。湯の中は摩擦が減って滑らせやすい。ゆるゆると撫でていくと、背後から詰まった息。
 こうして、黒崎が白石の愛撫で感じてくれることはいつも少しの驚きと嬉しさがある。そんなことを思いながら指を滑らせていたら、唐突に項を舐められた。
「ひゃっ」
「――……」
「黒崎さん、あんま舐めんといて、ください」
 身体を洗った後とは言え、少し嫌だと感じてしまう。身体を少し攀じると黒崎の顔が離れる気配がしてほっとした。
「声が可愛かったから。すまない」
「かわ……可愛くはないです。どちらかと言えば間抜け声やったはずです」
「可愛かった」
 顎を肩に乗せて覗き込んできた黒崎は、きっぱりとそう言う。うう、と唸るが黒崎が引くことはない。そんな白石の頬を自身の頬で触れた後、黒崎は白石の身体を引っ張りながら立ち上がった。
「このままだとのぼせてしまうし、距離が遠いから」
 こっち、と洗い場の壁に白石を誘導しながら、籠もった湿気を飛ばすように少しだけドアを開けた。冷たい空気が中に入ってくるのを感じながら、向かい合って口付けを重ねる。空気と唾液が混ざって、ちゅっと音がするのが浴室に響く。鼓膜から犯されながら、お互いの熱を握った。
「ん……、は、ぁ」
 自分と違う触り方、黒崎の癖が擽ったくて気持ちがいい。くちくちと小さな水音をさせながら幹を擦りながら左腕を下ろし、指の腹で袋の真ん中を撫でると黒崎が震える。そのまま中のふたつの塊を転がしながら先端をくちく。
「……ふ」
 息を詰める黒崎は、同じように白石の先走りが流れる先端に指を埋めるように刺激を繰り返してきた。
 キスを重ねながら、高めていく気持ちよさ。
 間近にある黒崎の表情は、悦で少しだけ歪んでいて。それが白石によって齎されているという現実。それが嬉しくて気恥ずかしい。
「は、……ん、んっ、」
 少しずつ早くなる手の動きに翻弄されながら、黒崎の熱も追い込んでいく。
 自分と相手の境界線が曖昧になる感覚のまま、粘膜を触れ合わせると気持ちがいい。
「ァ、あ――、っ」
「――……」
 ほとんど同時に、それぞれの掌の中に白濁を吐き出す。指の中にあるものは、温度を感じるより先に指の間を伝って床に落ちていった。
「……続きはベッドで?」
 軽い口付けの間にそう囁かれ、小さく頷いた。

触れ合う