そっと腹から下にかかっているシーツを取ると、寝るために緩められたベルトとフロントホック。布の上から掌をそっと這わせて形を確かめる。当然そこはきちんと収まっていて何の反応もない。
何度か掌で擦っても、梶は目を覚まさない。息を呑みながらスラックスを下着ごと太腿の途中まで下ろした。それなりに長い付き合いになっているため、まったく見たことがないわけではないため――基本的に、男同士だとそのあたり無防備だ――その時も思ったが、でかい。口の中に唾液を溜める間、手に持って重さを実感してみたり、指で長さを測ったりしてみる。大きさは満足。身体も引き締まっているし、そういえば筋トレが趣味だと何時だったか言っていたため、激務の間に趣味に勤しんでいるのだろう。
しかし、こんな立派なものを持っていながら離婚するとは。実は役立たずだったらどうしてくれようかと思いながら、唾液を垂らして幹を擦った。何度か上下に擦って刺激を与えると、きちんと立ち上がってきたため、少なくとも役立たずではないことが証明され、ほっとした。
「……ん」
先端を口に含んで皮を下げて先端を露出させる。舌を先端からくびれにかけて幾度か這わせると、すぐに大きくなっていく。指でくにくにと幹を刺激しつつ硬さを育てた。
「こいつ、よく今まで無事だったな……」
決して緩い刺激ではないのに、梶はまったく起きる気配がない。会社の床で寝ているとさっき言っていたが、よく襲われなかったものだ。結婚していようがあわよくばを狙う人間など、どこにでもいるだろうに。
とはいえ、反応がないというのはあまり楽しくないが、拒否されるよりはマシ。さっさとしてしまおうと、神谷は自分のスラックスを脱ぎ、財布からスキンとジェルと取り出した。
何だかんだで、神谷と違って横道に外れたことをしない実直な男だ。恐らく病気は持っていないだろうが、流石にナマでやる勇気はない。挿れる直前に被せるとして、梶の腹の上に置いておく。
その後にジェルの袋を破いて掌に絞り出した。梶の脚の上に腰を下ろし、萎えさせないように口で梶の陰茎を刺激しながら自分の準備を進めていく。
初めて嗅ぐ梶の匂い。幹を横から唇で挟んで咥えると、その匂いが脳みそまで届いてクラクラする。二度目はないだろうから、覚えても仕方がないはずなのに覚えようとする自分がいる。こんなイレギュラー、二度も三度も、梶が許すはずがない。だから、このたった一回もう手を出して後戻りなど出来ないのだし、楽しむが吉だろう。
自身の身体が興奮していることを自覚しながら、ジェルも少ないし、時間もないしで、多少のもったいなさを感じながらも後ろに挿れた指を動かした。
一気に二本挿入した指でぐるりと口の部分を撫でるようにジェルを広げ、マッサージするように広げていく。
興奮しているおかげで、柔らかくなるのが早い。前立腺を撫でるとひくりと腰が浮いた。
「は……」
粘着質な音は、静かな部屋の中に響く。指を出し入れしてジェルを塗り拡げながら、梶の陰茎を口に咥えると、自分の境界線が曖昧になる感覚。
舌で舐めながら、同じように指の腹で内壁を撫でる。先端に軽く歯を立てながら、爪でひっかく。袋を鼻の先端で押し、頬で転がしてから口に含んで舌先で弄ぶ。
ぼんやりとした思考の中で、早くこれが欲しいと夢中で舌を這わせた。
十分に屹立し、神谷の唾液と先走りでべたべたになった陰茎。
「梶」
一度名を呼んでも、目を覚まさない。
罪悪感はとっくに消えていて、目の前の陰茎を挿入することだけが思考を支配する。
指を抜いて適当にシーツで拭ってから、スキンの袋を開けた。空気を抜いて梶の陰茎に被せていく。位置を調整した後、ジェルの袋から残っていたジェルを絞り出して、屹立の上に落とした。少ないよりは多いほうがいいだろう。
梶、と今度は声に出さずに名を呼ぶ。目を覚まさない同期。友人。これを挿れたら変わるものはなんだろうか。それとも変わらないのだろうか。
判らないけれど、今はこれが欲しい。
その本能だけで腰をあげて、自分の中へと導いた。
「――……は、ぁ……」
ジェルと自重の力を借りて、腰をあげて上下に動きながら奥深く。硬く屹立した熱を収めると、それだけで気持ちがいい。蠕動とは別に、自ら息んで絞めながら腰を前後に動かした。
「は、きもち……」
あまり大きく動くと、梶が起きるかもしれないと思うと大胆に動くことが出来ない。起きて萎えられたら達することが出来なくなるからだ。だから最小限の動きで、自分を追い込んでいく。
尻が梶の肌に触れるほど奥まで迎え入れ、腰を回す。気持ちがいい。
「……は」
梶の腹に手をついて自分の身体を揺らすと、ギシ、キシ、とスプリングが軋む。物足りなさはあるけれど、それが逆に気持ちを追い込んでいくせいであと少しで達けそうだと息を吐いたところで、梶が瞼を上げた。
「まだ起きるなって」
視線を合わせたまま言えば、寝起きのせいなのかぼんやりとしたまま動かない梶は、それでも口を開いた。
「……これ夢か?」
「はは……そうそう夢」
もしかしたら、神谷がこうして襲っているせいで、そんな夢を実際見ていたのかもしれない。
「もうちょっとでイけるから……萎えんなよ。目瞑ってろ」
「う」
だとしたら暫くは萎えないだろうけれど、念のためと神谷が使っていた枕を手にとって梶の顔に乗せた。
さっさと終わらせようと、腰を動かしながら自分の陰茎と乳首をそれぞれ触る。萎えられたら消化不良になる。ここまできてそれは、ある種拷問だろう。
中の熱を締め付けながら、右手を動かして自分の陰茎を擦る。
少しもったいないが、タイムアウトだと諦めそのまま吐き出した。
「は……」
手の中に吐き出した白濁をこぼさぬように身体を捻って、ティッシュを取り指を拭った。そうしてまだ神谷の体内で萎えていない梶の陰茎を今までよりも強く締め付けた。
「――っ?」
「大人しくしてろよ。あと見るなって」
気付いたらずれていた枕をもう一度梶の顔に乗せて、腰を浮かせた。そのまま一度落とし、再びあげる時に締め付けながら引き出すと梶が息を詰めた。ジェルが空気と混ざる音と、ベッドが軋む音。
「おい」
足を動かそうとして、自分のスラックスが枷になり動けなかったらしい梶が肘を付いて起き上がろうとする。それを両手で抑え込みながら、腰の動きを早めた。
「……ッ」
「――」
元々夢を見ていて、更に現実でも刺激があって。混乱の中だろうに、それでも梶はスキンの中に精を吐き出した。流石にこちらだけ気持ちいい思いをしてあとはご勝手に、というのはあまりのも酷いだろうから、梶を吐精させられて一安心。
「まだ動くなよ」
少しだけ圧迫感の消えた体内。梶の腹に手をついて腰を上げてそれを抜いた。
大人しく動かない梶の陰茎ならスキンを外し、ティッシュに包んで捨てる。足をもそもそと動かしているのは、中途半端に脱がした布が絡みついて動けず、気持ち悪いからだろう。この状態だと起き上がるのもひと手間いるんだよなと気が付き、ついでとばかりに下着ごと両足から抜いてやった。
挿れるもの挿れて、出すものを出してすっきりした。眠気も酔いもどこかに行ったし、さすがに人を非同意で襲っておいてこのまま横で眠るわけにもいかない。
起き上がって呆然としている梶を横目に、自分の身を整えていく。
そうしてから身支度が終わった後に声をかけたら、真面目な男は的はずれなことを真面目に言ってきて。
それを一笑し、強制的に打ち切って部屋を出る。
日付を越えて、誰もいないフロントを横目に外へ出た。途中でタクシーが拾えたら乗ろうと考えつつ、マンションの方向へ向かって歩きだした。
付き合うか、なんて。
「大真面目」
笑い飛ばすことが出来なかったのは、掴まれた腕が思いの外強かったからだ。冗談でも、嘘でもなく、あの梶は本気だったからこそ、応えることが何も出来ずに断ち切った。
だが、言ったことは本心でもある。梶とどうこうなるつもりはない。梶はそもそもストレートの男。今回は寝込みを襲った神谷が悪いが、イレギュラーな出来事でしかない。今は混乱していても、明日には悪夢だったと気がつくだろう。
仕事の時にそれを前面に出して支障をきたすような男ではないから、そちらについては心配していないが、仕事帰りに飲みに行くということは、今後無くなりそうだ。友人としての縁を切られても仕方がない。
忘れろと言ったけれど、梶が忘れるわけがないということも判っている。
……拒否されたら、それまでか。
我慢せずに手を出したのは神谷だ。今までの情で、被害届を出されないことだけを祈るしか無い。とはいえ、混乱の中であっても付き合うかなどと言ったのだから被害届は出されないだろうと、それなりの確信はあるのだけれども。
我ながら卑怯で、計算高い。結局のところ、梶に本気で嫌悪されるとはこれっぽっちも思っていないのが本音。
明日、いや日付が変わったから今日。梶はどんな反応をするのだろうかと考えながら、見つけた野良タクシーに向かって手を上げた。
悦に溺れる