朝涼

048:指

 片桐の指は器用だ。興味のないことにはとことん無関心だから判りにくいが、何をやってもそつなくこなし、一定以上の成果を出す。
 ということは、興味のあることはそれ以上ということだ。
 今日も今日とて風呂に入る入らないの攻防を経て――いい加減諦めて欲しいと、お互いに思いながらお互いに引かないままだ――二人でベッドに上がる。まだ怖いという長谷川に、判ったと言いながらも片桐は遠慮しない。無理矢理ではないが強引で、そして一方的ではなく長谷川の反応を確かめながら一つずつ進めていく。面倒くさいだろうと問えば、自分が面倒だって判っているんですねと返されて、一発殴っておいた。

「そういえば、以前口の中弄ったら結構反応良かったの覚えてますか?」
「……覚えているかいないかで言ったら覚えてるけど、嫌だからな」
 あの時の様々な出来事を思い出してげんなりしながら言うが、片桐は笑顔で長谷川に伸し掛かってくる。
「まーまーそんなこと言わずに。最近少しずつ硬くなるようになってきましたし、色んな刺激でまた勃つようになるかもしれないですよ」
 逃げるより先に、ぐ、と顎を強く掴まれそのまま指が入り込んできた。異物に対しての防衛本能によって、唾液が出てくるのを感じながら片桐の手首を掴むが、その手の持ち主は気にすることなく、指の腹で上顎を撫でた。
 ぞわ、とあの時感じた感覚が襲ってきて目を瞑る。以前は一度撫でただけで出ていった指が、今日はそこに留まり続けゆっくりと前後した。微かに感じる凹凸、硬い感触。余すこと無く触れるように往復する指は、何度目かには長谷川の身体が反応するところばかり触れるようになった。
「気持ちいい?」
「……っ、」
 唾液を飲み込むことが出来ず、口の端から流れ片桐の手を汚しながら顎を伝っていく。他人に粘膜を触れられている恐怖と拒絶感や背徳感、それとは別に確かに気持ちよさも感じている自分がいる。
 片桐の指が上顎を擦るたび、身体の奥に溜まる熱。足を動かしとそれを目ざとくみつけた片桐が、左手で長谷川の股間を撫でた。
「んぅ!」
「ああ、ちょっと固くなってますね」
 ベッドに付いている肘が、自分の体重を支えられずガクガク震える。口の中の指に歯を立てると片桐は眉をあげてから、左手で長谷川の腹を押した。それに逆らわずに肘から力を抜いて、ベッドに寝そべる。
 身体に入っていた無駄な力が抜けて楽になるが、相変わらず片桐の指が口の中にあって息がつらい。
「涙目で睨まれるのもいいですね」
 口の中で指をくるりと回し、舌を挟んで遊び始める片桐は、まだそこからどく様子がない。片桐の指を嫌って逃げる舌を追いかけ、捕まえようと蠢かす。その刺激のせいで、さきほどから唾液が止まらない。
「んん……!」
「ほら、固くなってるの判ります?」
 寝巻きのパジャマの上から掌で擦られる。その感触に腰が浮くと片桐の掌に押し付けているようで羞恥が襲ってくるが、少しずつ強くなる摩擦から逃げることが出来ない。
「っ、う……っは、あ」
 びくりと身体を震わせると、片桐の両手が大人しくなり口の中から指が出ていった。久しぶりの新鮮な空気を肺に取り込んでいると、濡れた指が腹に直接触れた。冷たいような、温いような。中途半端な温度が臍の周りをくすぐってから、上に登ってきて乳首に触れた。
「ん……」
 爪で弾かれ、押しつぶされる。乳輪をくるくると撫でられると、濡れた場所が空気に冷えて自分でも敏感になるのが判った。
 そちらに気を取られていると、いつの間にか左手が下着の中に入っていて、直接長谷川の陰茎を握っていた。
「ん、ん、ぁ」
「腰浮いてる。気持ちい?」
「……っ」
 柔らかく握られたまま擦られると、気持ちがいいけれど、それをそのまま言われて頷けるわけもなく、目の前の顔を睨みつける。そんなもの、何の効果もないのだけれど。
「ふっ……ぅ、っ」
 上と下、別々に弄られて身体の中に熱が溜まっていく。
 吐き出したいのに吐き出せない熱は、長谷川一人ではどうにも出来ないものだ。
 ――片桐に、してもらわなければ、発散出来ない熱だ。
 上半身裸の片桐に腕を伸ばして、肩に触れる。顔を上げ視線を合わせてくれるが、何も言わない。
「……片桐」
「はい」
 楽しげに目を細める男の肌に爪を立てるが、今日はそれで許してくれる気はないらしい。
「どうしました?」
 乳首を指で潰しながら、陰茎を握る指を滑らせて陰嚢を弾く。そのまま左手はその奥に少しだけ潜ってまた戻ってきた。
 微かに触れられた場所。腹の奥が重くなる。期待が湧き上がってきて息を呑んだ。
「乳首でも感じるようになってきたし。どんどんやらしい身体になっていきますね、直幸さん」
「ッあ、つよっ……」
 親指で乳首をぐりぐりと潰されて、反射的に腕を突っぱねる。そんな抵抗など片桐に届くはずもなく、左右順番に遊ばれて身体を捻った。
「片、桐……」
「何ですか? 直幸さん」
 言外に、言え、と伝わってくる。長谷川とて、言わないときっと片桐はずっとこれ以上進めないことも判ってしまう。変なところで我慢強い男は、自分が望む展開にする駆け引きを楽しむのだ。
 つまり、長谷川が動かないとこの状況は変わらず、熱は溜まり続ける。
「――……っ」
 ぎゅうと目を瞑り、片桐の首に片腕を回して引き寄せ、お互いの顔を隠す。ふわふわとした片桐の髪を顔の横に感じながら、長谷川の下腹部に触れる片桐の左手に触れた。
 手を包むようにして、そのまま足の隙間へ滑らせる。
 その一本を握り、少しだけ力を込めて一番奥に触れさせた。
「……」
 恥ずかしさで顔から火が出るとは、きっとこんな時に使う慣用句だろう、というくらいに顔が熱くなっている。
「天然無自覚……」
「え?」
 耳元にある口があるのに、それでも聞き取れずに疑問を口にする。
「今の、他所でやんねーでくださいよ」
 だが、片桐はそれに答えてくれずに、まだ固い口の部分に軽く爪を立てた。
「お前以外に、こんなことする相手いないだろ……!」
「俺だけっていい言葉すね」
 耳の下に口付けながらの言葉、吐息にぞわと肌が粟立つ。そんな長谷川の反応を笑いながら、片桐は身体を起こしてから長谷川に見せつけるようにローションを手に取り、蓋を開けた。

翻弄する