朝涼

049:撫

 前から抱けば顔が見えるし、後ろから抱けば密着出来る。どちらも加藤としては喜びしかないので、正直体位はその日の流れと気分だ。経験が多い訳では無いので、アクロバティックな体位は筋肉的にも無理だし。あの有名な体位集も正直ギャグだろという体位ばかりで、あれを全部実践出来る人間はいるのだろうか。
「松田、大丈夫か?」
 加藤の下でシーツに埋もれるように横たわる松田は、荒い呼吸を繰り返している。本日の体位は後背位、つまりはバック。うつ伏せのまま顔だけ横に向けている松田の目元は前髪がかかっていて、表情が見えない。指でそっと前髪どかすとまだ涙が浮かび、熱で目元を赤くした瞳と視線があった。
 力ないその視線に、まだ松田の体内に挿れたままのものがひくりと蠢く。それを敏感に感じ取った松田が息を呑む。
「もう散々、ヤっただろ……離れろって」
「もう一度だけ」
「おい……ッ」
 松田が起き上がれないように肩を押しながら、肩甲骨に軽く歯を立てる。たったそれだけで敏感な身体は小さく跳ねた。
 肩においた掌をゆっくりと背中へと移動させ、肩甲骨の間をくすぐり、背骨の節を一つずつ触っていく。
「ぁ……ア、っ、ひ」
 か細い声をあげながら、松田が耐えようとしているのか、シーツに爪を立てるのが判った。カリ、という小さな音は、意外なことにきちんと耳に届く。
 汗の浮かぶ背中は、加藤が何度も吸い付いたせいで赤い痕を散らしている。その痕をひとつずつ指でなぞっていった。
「~~ぅっ……は、ぁ、ああ」
 加藤が指を動かすたび、加藤の陰茎を包む内壁がひくひくと締め付けてくるのが気持ちいい。奥を突くと、声が大きくなりぎゅうと強く締め付けられた。
 松田は背中が弱い。何故こうも、と思うくらいにただ触っているだけでぐずぐずになっていく。よく日常生活が送れるなと言ったら、てめえのせいだろうがと怒らせたことがある。それはつまり、加藤相手にだけ乱れるということで、嬉しくて押し倒したらチョップを食らったことは記憶に新しい。
 掌全体で腕の付け根から脇腹をさすり、爪を立てて腰を擽った。
「ヒ、ぁー……」
 引っ掻きながら皮膚を吸って痕をつけ、舌で舐るとひくひくと震える身体。
 思い切り腰を振りたい衝動を耐えながら、掌と舌で松田の背中を弄る。
「かと、も……あ、んんっ」
 松田が腰をあげると、加藤との間に少しだけあった距離がなくなり、奥に触れることになる。窮屈で気持ちがいいそこに自ら招いてしまった松田は、鳥肌を立てながらも、自分の身体とシーツの間に出来た隙間に手を差し入れ、自分の陰茎を握った。
「は……、っァ、あ」
「……まじえろい」
 自らの手で慰めている姿を間近で見ながら、思わず呟く。前を弄ると後ろも締め付けられて、加藤も気持ちがいい。
「んん~……ッかと……」
 上半身をシーツに沈め涙を流したまま、松田が加藤を横目で見上げてきた。重量によって雫が流れるのに引き寄せられ、目元に唇を寄せて涙を舐める。目を細めながらも拒絶しない松田が愛おしくて、松田の身体に腕を巻き付け横向きに転がった。
「っ、ぅ」
 中の角度が変わったためか、小さく唸る松田の項に口付け胸をさすると、その手が抗議で叩かれた。
「てっめぇな」
「ごめんって」
 アクロバティックな体位集ほどではないけれど、加藤の動きは時折松田にとって負荷が強いらしく、最中にこうして怒られる。気をつけているのだがどうしても余裕がない時のことだし、松田はえろくて止められないし、仕方がないだろう。
「けど松田も萎えてないじゃん」
 胸元にあった手を滑らせて、勃ちあがったままの陰茎に触れると、松田は小さく息を呑んだ。上下に擦りながら、松田の足を掬って自分の足を差し入れ、突き入れる。
「ひっぅ、ぁ、ア」
 ぶわ、と松田の匂いが強くなる。汗と体臭。シャンプーやボディソープの混ざった匂い。耳の後ろに鼻をつけて深呼吸をすると、松田に全身を支配されるようで、心地良い。
「まつだ……っ」
「んぁ……ッ、ぁ、は、はや、っァ、」
 もう何度も抱いているのに、今日だって三回目なのに、まだ足りなくて、ガチガチになったもので奥を捏ねて腰を振る。
 松田が加藤の腕に爪を立てるが、その微かな痛みはむしろこちらを煽るものにしかならなくて。松田の下腹部を押して、同時に腰を押し付けて少しでも奥へ入ろうとした。
「あ、ぁあ、あ――やめっ、やっ、ぁ……!」
 先程中で出したものが空気と混ざってぐちぐちと音がする。掻き出された精液が肌を汚すが、そんなもの気にならなくて、ぎりぎりまで引き抜いて泡立った精液ごと、また中へと入った。
「――~~んぅぅっ……!」
 びくりと松田の身体が撓り、強く内壁が絞まった後、手の中の白濁が溢れる。きつく締め付けられた自分のもの。その内壁を割るように何度か擦ってから、加藤も中へと精を吐き出した。
 乱れた呼吸を整えながら、汗の浮いた松田の肌を舐める。その刺激にも身体を震わせるのだから、たまらない。
「も、無理だからな……」
「俺もさすがに疲れたけど」
 元々、非力で体力などさほどない文系銀行員。セックスの体力だけ無尽蔵なんてことないのだ。
 とはいえ、目の前にえろい身体があって、触れていると何度でもしたくなるのだから松田の身体は毒であり薬でもあると、結構本気でそう思う。
「松田がえろいのが悪い」
「あ゛? 喧嘩売ってんのか」
「褒めてるのに……」
「どこがだよ」
 言葉はきつくても、その声は濡れていて色っぽい。元々松田が怒っていても可愛いだけで、怖さは全くないのだけれど。
「風呂、連れてけよテメーが」
「もちろん」
 偉そうに甘えてくる松田があまりにも可愛くて、顎を掴んで振り向かせてキスしたら、怒られた。

止まらぬ愛