朝涼

052:秘

 風呂上がり、半裸のまま冷蔵庫の前に立ち、扉を開けっ放しで水を呷る梶の背後にすすす、と寄る。神谷が近付いていることなど気付いているだろうに、一切反応しない背中。すぐ背後に立ち、腕を伸ばして形の良い尻を鷲掴みした。
「お兄さんいい尻してるな。一晩いくら?」
「ぐっ」
 安っぽく誘えば、水を喉に詰まらせた梶が咳き込む。その間、掌の中で形を変え筋肉を感じさせる尻を揉み続けた。
「……お前なぁ」
「反応しないってことは触っていいもんだと」
 はりがあって、筋肉が硬すぎず柔らかすぎず。神谷の尻とは違って余分な肉が少ないのは筋トレのお陰だろうか。梶の背後で、そんなことを考えながら揉み続けていたら、梶が腕を回してきて手首を掴まれそのまま前へと引っ張られた。
「気の利いた返し出来ねえ」
「いいんだよ、梶の反応が新鮮だから」
「……馬鹿にすんな」
「面倒くさいなお前」
 素肌の肩に顎を乗せて抗議するが、梶は鼻を鳴らし無言で冷蔵庫のドアを閉めた。そのまま固まる梶。意味が判らず掴まれたままの手首を揺らした。
「梶?」
「さっきの、言われたことあるってことだよな」
 不機嫌を隠しもしない言葉に、神谷は顔を隠すように顎から額へ当てる場所を変えて身体を震わせた。
「笑うな」
「だって、お前……っ」
 隠そうとしない梶のストレートな嫉妬は、神谷にとってそれなりに見てきてはいるものの、それでも毎回不思議だ。聞いて知ってしまったほうが気不味いだろうに、知ろうとするのだ。神谷とて、嫉妬はするがここまでストレートに出せない。
「拗ねるなよ」
「――……」
 神谷の腕を浮かせて、梶が身体を反転させる。そうして真正面から抱きしめられると、素肌の高い体温に覆われた。
 神谷が女と話していてもなんとも思わないくせに、過去のことや男相手には明確に嫉妬する。こいつ本当にストレートだよな? と疑問に思うほどに対応は分かれていて、それは神谷のことをよく判っているという証拠かもしれないが、こうも判りやすく嫉妬されるとは。
「ちなみに、尻に関しては俺より梶のほうが言われる確率高いからな」
「はぁ? って揉むな」
「一人で界隈に近づくなよ」
 この尻は間違いなく男を惹きつける。本人自覚がないだけに、危ない。両手で揉みながら真剣に言うと、思い切り眉を顰められた。
「お前以外の男に興味ねえよ」
「お前が掘られる方」
「――……」
 見事に思考が固まったらしい梶に笑う。そっちを考えないあたりがストレート所以だろう。別にいいけれど。神谷とて寝取られの趣味もスワッピングの趣味もないから、梶を送り込むことも一緒にそっちに近寄るつもりもない。
「で、いくら?」
 なんとなくどう言うのか気になって再度問いかけると、梶は暫しの沈黙の後口を開いた。
「……明日一日」
「多忙な梶次長の休日一日か。かなりの金額になりそうだ」
 時価換算でいくらになるのかつい脳内計算しつつ、首を伸ばして梶に口付けた。

秘めずに触れる