「いらっしゃいませ~」
ひんやりとした空気と水が流れる音。それとオルゴールの店内BGM。間延びした女性店員に迎えられると同時に、濃い匂いに包まれた。
匂いもだが、視覚的にも色鮮やかだ。
「何をお求めでしょうか?」
きょろりと店内を見渡す神谷に対して、先程の女性が声をかけてくる。店名の入ったエプロンのポケットにはハサミやボールペンなど色々と道具が詰め込まれていて膨らんでいる。そのくたびれ具合から新人ではないということを判断してから口を開いた。
「恋人に……花を贈りたくて」
「素敵ですね。お誕生日など、何か記念日ですか?」
「いえ、……」
とっさに言い訳が思いつかず言葉に詰まった後に、神谷は観念して素直に言うことにした。
「少し前に貰ったので、同じことをしてやろうかな、と」
「サプライズプレゼントということですね、かしこまりました」
否定されず、受け入れられたことにほっとする。緊張が少しだけほぐれたところでやっと周りを見渡す余裕が出てきた。
「何か気になるお花はございますか?」
赤、黄色、ピンク、紫に白。色とりどりの花は形も大きさも様々だ。そこにあるほとんどは名前はもちろん判らないし、見たことすらない。
だからこそ、知っている花に自然と視線が引き寄せられた。
「ひまわりも置いてあるんですね」
「はい。父の日に送るイメージが強いんですけれど、プロポーズにも適しているんですよ。バラと同じく本数によって意味が違ってくるんです」
「へえ……」
言いながら、彼女はポケットから小さな紙を取り出し、神谷に手渡してくれる。ひまわりの花言葉と書かれたそれによると、一本は一目惚れ、三本は愛の告白、九十九本は永遠の愛、一〇八本は結婚してください。なるほど、バラも確かこんな花言葉があったなと思う。以前貰った花束に入っていたバラ。なら仕返し……ではなくお返しとしてひまわりというのもありだろう。
「ならひまわりを、……七本で、あとは五千円ほどで作ってくれますか」
七本という数に、女性は少しだけ首を傾げるも接客のプロは、無駄なことは何も言わずに了承し仕事にかかってくれた。
そのことにほっとして制作にとりかかる店員を横目に、店内の花をなんとはなしに眺める。きっとあの店員は贈る相手の性別も、関係も誤解しているかもしれないなと思うが、訂正することなど出来ないし、もう二度と足を踏み入れることのない場所だ。店員達の井戸端話のネタになるのは許容するしかないと諦めた。
あの男は、ひまわりの花言葉など気付きもしないだろうから、ちょうどいい。
ただちょっと以前の意趣返しだという態で渡して、話のネタにするだけ。
それくらいで充分なのだと、本心は仕舞い込んでそう思った。
密かな愛