黒崎には小さい頃から、大切なものを仕舞い込む癖があった。
漢字テストで百点を取った答案用紙、逆上がりが出来た証の賞状、家族で旅行に行った時に拾ったキレイな石、何度も通うほど好きだった映画チケットの半券、受験日の日付の新聞、応募して当たった景品。実家にいる時から、大学に入った後も続いている収集癖。黒崎は基本物に執着しない。記憶力がいいということもあって、覚えておけばいいと思っているし、プレゼントされたものだって使うし使い終わったら捨ててしまう。そんな中でも、捨ててしまうことに抵抗があるものだけを仕舞い込むのだ。
基準は自分でも判らない。
どう見ても必要ないだろうというものから、これは納得というものまで。けれど、理性とは別で本能は全てを捨てたくないと叫ぶのだから、ひとつも捨てられないまま。
一緒に近所のスーパーまで買い物に行って、帰ってきたところ。買ってきたものを、冷蔵庫や他所定の位置に入れていく白石の邪魔にならぬようにコーヒーを二つ淹れながら、彼の動きをなんとはなしに見ていた。
黒崎のマンションなのだが、台所の主はすっかり白石になっている。黒崎はすぐに食べるのを忘れるため、白石が世話を焼いてくれているのは有り難くもあり、申し訳なさもある。
信用出来ない人や場所で作られた料理が食べられない黒崎にとって、白石の料理は何の疑いもなく口に出来る数少ない手料理だ。黒崎のことを思って作ってくれる料理の数々は、どれも美味しい。
……こっちの味付けなんで、黒崎さんの口に合うか判らへんですけど。
控えめにそう言いながら出された最初の晩ごはんは、正直に言うと仕舞い込んでしまいたかったが出来るはずもないので、写真を撮って現像してある。これからよく食べることになるんだから、と笑った白石の顔も記憶している。
「白石君」
全てを仕舞い終わり、エコバックを畳んでいる白石に声をかける。エコバックが動く風でふわふわと動いているレシートを指差し、
「それ、貰っても?」
「? これですか?」
十五センチほどのレシートを手に取り、白石に手渡してくれることに感謝しながら受け取った。代わりに沸いた湯を使って、インスタントコーヒーを淹れて白石に渡した。
別に初めて買い物に行ったわけではないのに、何故か今日のこのレシートを取っておきたいと思った。何でも無い一日の、何でも無い日。けれど、その何でもないを積み重ねていくのが日常なのだ。
「今日の夕飯は?」
「秋鮭ときのこのホイル焼きです」
「美味しそうだ」
キッチンに二人立ったまま、コーヒー片手の会話は穏やかで、楽しい時間だとそう思った。
宝箱に仕舞う