朝涼

071:朝

 ローテーションで回ってくる夜勤は、若手の義務とはいえほとんど暇でしかない。とくに丸ノ内周辺はオフィス街ということもあり、日付変更間際ともなると、残業をしている社畜や、今の矢島と同じく夜勤をしている人ばかりになる。人が少なければ対人の事件事故は少なるなるため、夜勤の殆どは事務作業。それがひたすら苦手な矢島にとって、このローテーションは苦痛でしかない。
 仮眠時間とは別の、朝方にある短い休憩時間。少しだけ冷えた身体を温めようと自販機で、ホットココアを購入し、隣のベンチに腰掛けた。
 太陽が落ちて十時間も経てば、熱は冷めて肌寒さを感じる。あと数時間もしたら再び日が昇るのだろうが、ビルの隙間から見える地平線は、まだ少し明るくなっているだけだ。
 スマホを取り出し、ロックを解除。届いているダイレクトメールを削除してから甘い液体を飲んだ。
 廊下を挟んだ反対側の窓。
 ビルの隙間から見える白い月は真ん丸で、今日は満月なんですって、ハロウィンと重ならなくて残念ですよね、と何が残念なのか判らないことを香川が言っていたことを思い出した。
 手に持ったままのカップから、じわりと指先に伝わる温かさはほっとして、緩んだ気持ちをそのままに、カメラを起動した。
 窓に向けてカメラを構えて、シャッターを押す。カシャ、という音は思いの外大きく響いた。
「……」
 少しだけぼやけた月は、それでも見えないこともないだろうと、メッセージアプリを起動して画像を添付。件名も本文も何も入れないまま送信した。
 基本電話で連絡を取り合っていて、滅多に使わないためすぐ上の日付は平気で数ヶ月前だったりする。だからいつも、この男の名前は下の方に追いやられているのだけれども、久しぶりに一番上に戻ってきた。
 どうせ寝ていると思っていたのに、すぐに既読がついて流石に驚いた。本当にこいつはいつ寝ているのだろうか。
 小さな音とともに、相手からメッセージが届く。
「……相変わらず脳内変換壊れすぎだろ」
 意味なんて無い画像に、意味を見出してそれを自分の都合のいいように解釈する男に対して、朝方の空気では怒る気力もわかずにただ苦笑した。

朝月夜