今でも、やはり不思議に思う。ストレートだった男が、簡単に男と付き合おうと何故思えたのか。寝込みを襲ったのは確かに神谷だが、それだけで本当にはまるものなのだろうか。いや、セフレならありなのだろうけれど、本気になることなんて、ないだろうと。そう、思ってしまう。
一昔前よりも風通しが良くなったとは言え、まだまだ他の国よりは遅れているのが日本。男女が付き合うのが当然、という空気はこれからも変わらぬままというのは判っているし、それをどうにかしてほしいなどと崇高なことは考えていない。
「梶も加藤も……」
「何がだ」
思わず漏れた独り言を拾われ、一瞬動きを止める。それを誤魔化すようにフォークで生ハムをすくい上げ、隣の口に押し付けた。もそもそとハムを口の中に入れていく梶を見て目を細め、自分の分はチーズに巻いて口の中へ。塩気を残したままワインを一口。発酵した甘さが塩気と混ざっていく。
「ストレートで生きてきた男が、男と付き合うことに抵抗ないって、俺からしたら不思議なんだよ」
世間の空気だとかそういうのとは別に、三十年以上も女が好きとして生きてきた男が、今神谷の隣にいるというのが、どうにも不思議で、たまに夢の中にいるのではないかと思う時がある。
夢の中だというのなら、ずっと醒めないで欲しい。
――そう願うくらいに今は幸せだと、思っている。
仕事終わりの平日にセックスをするためでなく、日常を、生活を共にして時間を過ごす。夕飯を食べ、風呂に入り、洗濯をして、掃除をして、晩酌をしながらテレビを見て、笑い合う。そんな生活。
現実に起きながらも、不思議なのだと神谷が言えば、梶は息を吐きながら口を開いた。
「好きになったんだから普通だろ」
目をそらしての言葉は、しかし真摯な響きがある。
そのことを嬉しく思いながら、隣の体温に体重を預けた。
「照れるなよ」
「うるせえよ」
例えば今後、梶と道を違えても貰った言葉は本物だと、信じられるくらいにはその声音は真っ直ぐだった。
特別視するのではなくて、当然とする。
そのことについてはやはりまだ不思議だけれども、梶のこの言葉は素直に嬉しいと、そう思った。
眩しいほどに実直な言葉