「盛大に笑ってくれていいんですよ」
肩を震わせながらも、笑いを必死に噛み殺している長谷川にそう声をかけると、長谷川は顔を上げて片桐を見た。笑いを堪えすぎて涙が浮かんでいるのがいい。この顔を見られただけでも、充分元は取っただろう。
「お前、ほんと似合わないなぁ」
目尻の涙を拭いながら、長谷川がしみじみと言いながら片桐の全身を眺める。それに釣られて片桐も自分の身体を見下ろした。
ピンク色の身体にぴったりとフィットする服。太腿の半分も覆われていない布。頭にはなんの意味があるのか判らないキャップ。今やAVにしか存在しない、ナースな姿。カツラから髪の毛が流れ落ちてくるのが鬱陶しい。
それなりに筋肉があるので、腕や胸が女とは別の意味でピチピチしているし、スカートは勝手にずり上がってきてミニを通り越している気がする上に、筋肉質な太腿がお目見えしていた。せめて筋肉がなければもうちょっと見えるのだろうか、などと考える。
「姉と同じ顔なのに、似合わねえんですよね」
「片桐は美人ってより美形だからなあ」
やっと笑いを収めた長谷川が、身体を伸ばしながら笑う。案外、この人は片桐の顔をストレートに褒めるよなと何時も思うことを今日も思った。
「しかし、俺が子供の頃はまだハロウィンなんてなくて、気がついたら根付いていて、更に最近はコスプレイベントに変化って……スピードがすごい」
「日本で流行り始めた頃は子供のイベントでしたよね」
「今もそれ自体は間違ってないよな……?」
疑問する長谷川と一緒に首を傾げておく。正直興味がないから詳しくない。
今回のコスプレだって、会社の若手有志が仕事後に会社内でイベントをやろうと企画を立ち上げ、片桐はほとんど強制参加でコスプレする側に割り振られた。長谷川は菓子を用意する方だったらしく、正直片桐としては金を払ってでもそちらの方が良かった。
「しかしなんでソレなんだ? 片桐ならドラキュラとか騎士とか、漫画のコスプレだったとしても格好いいの求められただろ」
「それはあっちに任せました」
と言いながら、少し離れた場所で女に囲まれている三浦を指さした。典型的なドラキュラコスプレに女子達は、片桐を見て笑った後三浦のもとに行く。お陰で、片桐の隣にはずっと長谷川しかいない。
だから機嫌よく、片桐は長谷川を覗き込んで目を細めた。
「彼氏がモテるようなコスプレしていいんですか?」
「――……そこについては今更だろ」
呆れた声で言う長谷川の表情に嘘はない。
片桐の外見について、認めて褒めた上で特に嫉妬しない。そのくせナンパされると微妙な顔をしているのだから、線引きはどこなのだろう。
「まあ正直、長時間拘束されるのたるかったんで。あともう少ししたら帰りましょう」
「これは口実でみんな片桐と飲みに行きたいんだろ。付き合ってやれよ」
「そのためのあいつです」
「お前なぁ……」
モテる童貞に譲っておけば問題ない、とにこやかに言い切る。会社のメンバーと飲みに行くのも別に嫌いではないが、長谷川と二人きりのほうが断然良い。長谷川も、絶対に飲みに行けと追い立てないということは、片桐と一緒に帰ることは吝かではないのだと解釈して、あと少し笑いものになってお役御免の時間を待つことにした。
萌えはない