二十一時を過ぎた訪問を非常識だと追い出さなかったのは、燻りが消えなかったから――というのは、加藤には秘密にしたい。
疲れた顔をして現れた加藤は、風呂上がりの松田に抱きつき暫く動かなかった。全身から疲労を滲ませる男をすぐに引き剥がすのを躊躇ってしまったが故に、数分そのままで。殴って離れるか、無理矢理引き剥がすか松田が悩み始めたところで、加藤から離れたかと思えば据わった目が松田を捉え、
「風呂入ってくるから、待ってて」
それだけ言って家主の許可も取らずに風呂場に向かっていったのが十五分前。湯気を出して髪もほとんど濡れたままの加藤に、強引にベッドに連れ込まれた。
加藤にキスをされると、どうしたって抵抗が出来ない。触れ合った粘膜からじわりと溶け合うような、加藤の剥き出しの感情に触れるようなそんな感覚に囚われる。恐怖を感じるより先に、トンと押されて快楽の渦に落とされる。
松田を導く指は強引で、けれど最初の頃のような無理矢理感はない。流されているなんて言い訳をさせてくれないまま、松田の中の快楽を広げていく。それに抗うことが出来ずに身体も思考も、ぐずぐずになるのだ。
「松田……」
「……、は、……ッ、ぅ」
ぐぐ、と中に入ってきた熱が、内部から壁を押し上げてくる。息を詰めると、加藤の松田の髪に指を通し地肌をゆっくりと撫でていく。その手首を掴んだ息を吐いて落ち着こうとする間、加藤は動かず待っていることをやっと覚えた。
そのことがふと面白くなって、震える息を吐きながらも笑ってしまう。
「何、どうしたの」
「いや、……待て覚えたなって思ったら笑えてきた」
加藤は猫っぽいところもあると思えば、松田に対しては比較的犬っぽいところもある。けれど従順ではないから何度叱ったことか。……普段は松田が怒っていてもスルーする男だが、さすがに松田の身体に負荷が強いことは反省するらしくセックスに関しては改善が見られる。どうせなら他のことも同じようにしてほしいものだが。
「……余裕あるならもう動く」
言いながら松田の腰を掴んで奥へと入り込んでくる。落ち着きかけた呼吸は、数度擦られるだけで再び早くなっていった。加藤の髪の毛から落ちてくる雫が冷たくて、それを避けるように抱きつくと懐くように頬同士をすりと合わせてきた。
ガツガツとした交わりはそれはそれで気持ちがいいけれど、同時に自分が判らなくなる恐怖が付き纏う。ゆっくりされると自分の痴態を自覚してしまうが、気持ちよさだけがあって悪くない。
無茶な動きをされて息が詰まることも、息が切れている最中に突っ込まれることも、慣れてしまっている自分は自覚しているが、言うと加藤が調子に乗るので言わない。自ら墓穴に入り込む趣味は松田にはない。
ゆっくりと揺さぶられながら内壁を擦られる。それに合わせて加藤の首筋を舐めると、加藤が小さく息を呑む。そのまま鎖骨を軽く噛みながら、うなじの髪の境を指で撫でた。
「ま、つだっ」
「俺今日はゆっくりがいい」
ぐ、と強く腰を掴まれたタイミングで身体を離して額を掌で押さえると、加藤が耐えるように喉奥で唸った。松田の体内にある熱が大きくなるのを感じることに優越感。
「松田の意地悪」
「待て覚えたんだから、それくらい出来るだろ加藤君は」
「うぅ~……」
色々と耐えながら、それでも松田を無下にせずゆっくりと動く加藤に、朝一の燻り分の仕返しは出来たとスッキリ。
あとは肉体的に満たされたらそれでいいと、襲ってきた快楽の波に逆らわずに拐われた。
満たされた欲