朝涼

083:涙

 強引ではあるけれど、一方的ではなく。
 無理矢理ではないけれど、遠慮があるわけでもなく。
 大丈夫大丈夫、と軽く言われることに対して大丈夫じゃないと何度言っても聞き入れてもらえないのに、長谷川が本気で嫌がることはしない。普段は唐突にぶっ飛んだことをして長谷川を驚かせドン引かせるというのに、セックスの時は真反対。
 それを有り難いと思うのはいつも終わった後で、最中はそれどころではないのだけれども。
「どうしました?」
 少しだけ引いた熱を逃さぬように、男二人で布団に包まることにも慣れてきた。一つしか無い枕を片桐は毎回長谷川に譲ってくれるし、背中に腕を回してくっついてくる。それを受け入れながら少しの眠気と戦いながら片桐を見ていると、前髪が目に入って鬱陶しいのか、払い除けながら片桐がきいてくる。
「お前に慣らされてきてるな……って実感してただけだ」
「なんすかそれ」
 その指は、そのまま長谷川の目元を撫でていく。少しだけかさついているのは、さきほど泣いたせいだろう。感情や刺激で勝手に流れ落ちるそれを情けないと思うのだが、いつも耐える間もなく流れ落ちていくためどうしようもない。それが恥ずかしくて隠そうとすると、暴こうとしてくるのも厄介だ。
「けど、慣れてきたのは事実ですよね。最初からえろかったけど、最近は更に磨きがかかって泣きながら積極的だからアテッ」
「なんでお前はすぐそういうことを言うんだっ」
 目の前の額を叩けば、思いの外いい音がした。それに怒ること無く、むしろ楽しげに目を細める片桐は長谷川の指を捕まえた。
「だって直幸さんのそのアンバランスなところがえろさに繋がってんですし、ちょっと恥ずかしいほうが感度良くなるじゃないですか」
「終わった後にそういうことを……」
「ピロートークってことで」
 軽すぎるし、これは話題として合っているのか微妙だ。少なくとも長谷川の常識の中ではアウトなのだが、お上品だとからかわれているため自信がない。大体、片桐はそういうのやらないタイプだろうに、長谷川をからかうためならば眠らずにこういうことをするのだからたちが悪い。遊ばれているだけだと判っていても、どうにも反応してしまうのも悪いのだろうけれど。
「とはいえ、やってもらいたいこと沢山あるんで、これからもどんどんえろくなってってくださいね」
「…………」
 長谷川の目元を撫でる指先は優しいのに、言っていることが最低すぎる。
 見てくれと行動は完璧なのに、言動が全てを台無しするそのスキルはすごい。
「お前は本当に……」
「大丈夫ですよ、直幸さんが嫌がっても俺がえろくしていくんで」
「嫌な宣言をするなよ……」
 自信満々に言われると怒りも湧かない。片桐の体温は高くて、触れられているとどうしても眠くなるのだ。動いた後で、体力が削られている時は特に。
 片桐にそんな情緒やピロートークを求めるのがそもそも間違っているのかもしれないと諦めをもって身体から力を抜いた。

涙の跡を拭う指先