朝起きたら、すぐ隣で黒崎が正座して白石を見下ろしていて、本気でびっくりした。人間驚きすぎると動けなくなるというのは本当なのだと、こんな時に実感するとは。
何故だか切羽詰まった顔をしている黒崎を見ながら、向き合うようにベッドの上で正座。
「あの……、黒崎さん? どないしましたか」
「まずはおはよう、白石君」
「はいっ、おはようございます」
律儀に頭を下げて挨拶する黒崎に釣られて、白石も頭を下げて挨拶する。何だこれ、と思ったのは顔を上げてからだ。
ベッドの上で休日の朝っぱらから向き合って正座。何やこれ。
「白石君にお願いがあるんだが、拒否は権利だから無理なら無理と言ってほしい」
「はぁ……」
真剣な顔と声をしているが、シチュエーションがおかしすぎて白石の声から緊張感が抜けている気がする。いやだが、考えてほしい。寝起きにこんなこと言われて、シリアスになれる人間などいるだろうか。無理だろう。と、まだ少し寝ている頭がツッコむ。
そんな白石の脳内を知るよしもない黒崎は、膝の上に置いた指にぎゅうと力を込めて、意を決したように口を開いた。
「抱かせてほしい」
……だかせてって、何を?
その一言がちゃんと理解出来なくて、白石は沈黙を返してしまった。その沈黙をどう取ったのか、黒崎が言葉を重ねる。
「昨日の夜にしたのに満足してないのかって言われたらまさしくその通りで、その、もう少し白石君に、触れたくて。身体に負担があるのは白石君だから無理なら無理と言ってもらっていいんだが俺としてはもう少し触れたくて、けど寝ている白石君に何かするのは倫理的にどうなんだと葛藤していたところにちょうど白石君が起きてくれた」
ものすごく珍しい黒崎の長文早口に圧倒されながらも、しかしやっと脳みそが理解して、思わず叫んだ。
「…………抱くって、俺のことですか!」
「他に何がある」
黒崎にツッコまれた。今日は珍しいことのオンパレードだ。
それが面白くて笑いながら、足を崩し両手を軽く広げた。
「どぉぞ」
「……本当に大丈夫か?」
「そんなやわやないですし、黒崎さんいつも、その……丁寧にしてくれはるんで、だいじょぶです」
照れはあれど、それでもちゃんと伝えると黒崎はほっとしたように息をつき、やっと黒崎の周りの空気が和らぐ。そうして伸ばされた腕と身体を抱きとめながら、二人一緒にもう一度ベッドに逆戻りした。
土曜日の太陽が登ったばかりの朝は、ひんやりとしている。そんな空気の中、崩れた胡座の足の間に入るように黒崎の上に座り、黒崎にゆっくりと肌を撫でられながら口付けを繰り返すと、だんだんと体温と呼気が上がっていく。同じように黒崎の肌に触れながら息を飲んだ。
「ん……っ、……ぅ」
黒崎は白石の身体を見ても触れても、ちゃんと欲情してくれると判っているとはいえ、見られることにどうしても抵抗がある。それでも隠そうとすると黒崎がだめ言いながら暴いてくるから、隠さないようにするので必死だ。
少しだけ反応しているお互いの陰茎を、まとめて握って擦る。その指に黒崎がローションをかけてから誘導するように指が股の間に入っていった。前立腺を外から親指で押され、ひくりと腰が跳ねる。
「ふ、……ぁ、」
ローションの助けを借りながら両手でそれぞれの先端をくるくると弄ると、すぐに硬くなっていく熱。黒崎の肩に顔を預けながら浅い息を繰り返し、自分のものよりも黒崎のものに指を這わせた。流れ出てくる先走りとローションをかき混ぜながら幹を上から下へと撫で、根本を親指で擦ってから陰嚢を掌で転がす。
黒崎の指に反応するようにひくりと動くそれを見るのが好きで、そして黒崎が時折息を呑むのが嬉しくて、自分のものではないのに触れていると息が上がっていく。
「――……少し、腫れてる?」
「……ぃじょぶです」
指をゆっくりと挿入した黒崎が、心配を滲ませた声で問いかける言葉を否定した。
昨日の今日――というよりも、ほんの数時間前まで使っていたのだから、どうしても熱を持っている。けれど痛いわけではないし、切れているわけでもない。そもそも本来の用途とは違う使い方をしているのだ。多少の無理は大前提。
「やめる言わんでくださいね。ここで……寸止めのほうがつらいです」
そのままの声量で言うのは憚られ小さな声になるが、正しく黒崎に伝わったのか、止まっていた指がゆっくりと動き出した。それに息を吐いて身体から力を抜く。黒崎の指にはペンだこがあって、その凹凸が内壁に触れると指の腹とは違った感触で、つい締め付けてしまう。
「ん、ぅ……」
ローションと空気が混ざる小さな音、外から聞こえるバスや車の走る音、混ざり合う人々の声と気配。そんな外の世界と隔離されたように静かなこの部屋で、お互いの気配だけを追う罪悪感と優越感は、快楽のスパイスになる。
「廉」
「――……」
名を呼ばれ、全身に広がる快楽。この声に弱いのはどうしようもない。息を吐き縋り付くと、優しく与えられる口付け。触れ合った舌から溶け出す気持ちのまま絡み合う。
「もぉ……くださ……」
呼吸の間にそう強請ると、間近にある瞳が強くなる。
それが嬉しくて身体の奥がじわりと緩むのを感じながら、黒崎から与えられる悦に身を任せた。
睡余